安衛法の概要と遵守のポイント－２（労働者の危険又は健康障害を防止するための措置～罰則）

〇 安衛法の概要

◇ 安衛法の目的

• 安衛法の目的は、職場における労働者の安全・健康の確保と、快適な職場環境の形成を促進することです。

◇ 条文参照

• 安衛法（2020/04/01改正施行）
• 安衛令（2019/06/05改正施行）
• 安衛則（2020/08/01改正施行）

〇 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置

◇ 事業者の講ずべき措置

• 事業者は、労働者が、危険物を取り扱うときは危険防止措置を取らなければいけません（20条）。
• 危険物の例として、機械・器具・設備、爆発・引火・発火性のある物、電気・熱などのエネルギーが挙げられています。
• 事業者は、労働者が、危険な作業を行うときは危険防止措置を取らなければいけません（21条）。
• 危険な作業の例として、掘削、採石、荷役（積込み・積卸し）、伐木などが挙げられています。
• 事業者は、労働者が、危険な場所で作業を行うときは危険防止措置を取らなければいけません（21条）。
• 危険な場所の例として、墜落の恐れがある場所、土砂崩壊の恐れがある場所などが挙げられています。
• 事業者は、労働者が、作業場において健康障害を起こさないよう予防しなくてはいけません（22条）。
• 健康障害の要因として、原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体、放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧、排気、排液、残さい物などのほか、計器監視や精密工作などの作業が挙げられています。
• 事業者は、作業場において、労働者の健康・風紀・生命保持に必要な環境整備をしなければいけません。（23条）。
• 必要な環境整備項目として、通路・床面・階段等の保全や、換気・採光・照明・保温・防湿・休養・避難・清潔に必要な措置が挙げられています。
• 事業者は、労働者が、作業行動から労働災害を起こさないよう予防しなくてはいけません（24条）。
• 事業者は、労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させなくてはいけません（25条）。
• 事業者は、（次に掲げる）一定のずい道工事や一定の圧気工法を使用する工事においては、爆発・火災等に備えて、労働者救護に必要な空気呼吸器や酸素濃度測定器などの機械等を備え付け、当該機械等の使用方法や救急処置などに関する救護訓練を年1回以上実施しなければいけません。また、救護の安全に関する規程を定め、作業を行う労働者の人数・氏名を常時確認できる措置を講じ、所定の資格を有する「救護技術管理者」を選任して救護に必要な権限を与えて技術的事項を管理させなければいけません。（25条の2、30条の3、令9条の2、則24条の3～9）
• ずい道工事で、坑口からの距離が1,000ｍ以上、立坑の深さが50ｍ以上となる時
• 圧気工法を使用する工事で、ゲージ圧力が0.1メガパスカル以上となる時

◇ 労働者の遵守義務

• 労働者は、事業者が上記の「労働者の危険又は健康障害を防止するため実施する措置」（20条～25条の2）に応じて、必要な事項を守らなければいけません（26条）。なお、安衛法の罰則は労働者にも適用があり、この遵守義務に違反した労働者は、50万円以下の罰金に処せられます（120条）。

◇ 事業者による危険性や有害性等の調査（リスクアセスメント）

• 事業者は、事業場における危険性や有害性等を調査し、その結果に基づいて、安衛法の規定による措置を行うほか、労働者の危険や健康障害を防止するため必要な措置を行うよう努めなければいけません（28条の2）。いわゆる「リスクアセスメント」ですが、その具体的な内容は安衛法や安衛則にはなく、別途定められている厚生労働省（リスクアセスメント指針）などに記述されています。なお、リスクアセスメントの大まかな流れは、次の通りです。
• 事業場のあらゆる危険性又は有害性を洗い出し、特定します。
• 労働災害（健康障害を含む）の重篤性（災害の程度）及びその災害が発生する可能性の度合を組み合わせてリスクを見積ります。
• 見積に基づくリスクを低減するための優先度を設定した上で、そのリスクを低減するための措置（リスク低減措置）を検討します。
• リスク低減措置を実施するとともに、その結果を記録します。

◇ 元方事業者（特定元方事業者）の講ずべき措置

• 元方事業者は、関係請負人とその労働者が、安衛法に違反しないよう必要な指導を行なわなければならず、違反していると認めるときは、是正指示をしなければいけません。また、指示を受けた関係請負人とその労働者は従わなければいけません。（29条）
• 特定元方事業者は、関係請負人の労働者が、土砂等の崩壊、土石流の発生、機械等の転倒、架空電線による感電、埋設物や擁壁等の損壊の恐れのある場所において作業を行うときは、危険防止措置が適正になされるよう技術上の指導などをしなければいけません（29条の2、則634条の2）。
• 特定元方事業者は、一定規模以上の事業場ごとに、統括安全衛生責任者を選任し、元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、所定の事項を統括管理させなければいけません（15条、30条、令7条）。⇒安衛法の概要と遵守のポイント－１（総則～安全衛生管理体制）の統括安全衛生責任者の項を参照。
• 特定元方事業者は、建設物等（建設物、設備、原材料）をその関係請負人の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、労働災害を防止するため必要な措置を取らなければいけません（31条）。

◇ 関係請負人とその労働者の遵守義務

• 元方事業者（特定元方事業者）の関係請負人は、元方事業者（特定元方事業者）が行う上記の「元方事業者（特定元方事業者）の講ずべき措置」（30条～31条）に応じて必要な措置を行わなくてはならず、また、関係請負人とその労働者は、元方事業者（特定元方事業者）がそのために行う指示に従わなくてはいけません（32条）。

◇ 機械等貸与者等の講ずべき措置

• つり上げ荷重 0.5 トン以上の移動式クレーンなど、所定の機械等を他の事業者に貸与する者は、当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を取らなければいけません。また、機械等の貸与を受けた者は、当該機械等を操作する者がその使用する労働者でないときは、当該機械等の操作による労働災害を防止するため必要な措置を取らなければいけません。（33条、則10条）

◇ 建築物貸与者の講ずべき措置

• 事務所として使われる建築物の一部を他の事業者に貸与する者は、当該建築物による労働災害を防止するため必要な措置を取らなければいけません（34条、則11条）。

◇ 違法な指示の禁止

• 注文者（発注者、元請業者、下請業者）は、その請負人に対し、その指示に従って当該請負人の労働者を労働させると安衛法違反となるような指示をしてはいけません（31条の4）。

◇ 監督署の使用停止命令等

• 都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、労働者の危険又は健康障害を防止するため事業者の講ずべき措置（20条～25条の2）、特定元方事業者の講ずべき措置（30条の3～31条の2）、機械等貸与者等の講ずべき措置（33条）、建築物貸与者の講ずべき措置（34条）の各規定に違反する事実があるときは、その違反した事業者、注文者、機械等貸与者、建築物貸与者に対し、作業の停止、建設物等の使用停止など労働災害を防止するため必要な事項を命じることができます。その場合、必要な事項を労働者、請負人、建築物の貸与を受けている者に命じることができ、また必要があるときは注文者にも勧告又は要請することができます。（98条）
• 都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、それ以外の場合において、労働災害発生の急迫した危険があり、かつ、緊急の必要があるときは、必要な限度において、事業者に対し、作業の一時停止、建設物等の使用の一時停止その他当該労働災害を防止するため必要な応急の措置を命じることができます。その場合、必要な事項を労働者にも命じることができます。（99条）

〇 労働者の就業に当たっての措置

◇ 安全衛生教育

• 【 雇入れ時等教育 】事業者は、労働者を雇い入れたときや、労働者の作業内容を変更したときは、従事する業務に関する安全・衛生教育を行なわなければいけません（59条、則35条）。
• 【 特別教育 】事業者は、所定の危険・有害な業務に労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全・衛生特別教育を行なわなければいけません（59条、則36～39条）。
• 【 職長教育 】事業者は、新たに職務に就くこととなった職長（作業中の労働者を直接指導・監督する者で、作業主任者を除く）に対し、作業方法の決定及び労働者の配置、労働者に対する指導・監督方法、その他労働災害を防止するため必要な事項について教育を行なわなければいけません（60条、令19条、則40条）。
• 【 危険有害業務従事者教育 】事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険有害業務従事者（就業制限に係る業務の従事者、特別教育を必要とする業務の従事者など）に対し、一定期間ごと又は機械設備等が新たなものに変わる場合等に、安全・衛生教育を行うように努めなければいけません（60条の2）。

◇ 就業制限

• 事業者は、クレーンの運転など所定の業務については、当該業務に係る所定の免許者又は技能講習修了者などの有資格者でなければ業務に就かせてはいけません。また、当該業務に就くことができる者以外の者は、当該業務を行なってはいけません。（61条）
• 就業制限のある業務として、発破の業務、つり上げ荷重5t以上のクレーンの運転、つり上げ荷重1t以上の移動式クレーンの運転、可燃性ガスや酸素を用いて行なう金属の溶接・溶断・加熱、最大荷重1t以上のフォークリフトの運転、機体重量3t以上の所定の自走式建設機械の運転、最大荷重1t以上のショベルローダーやフォークローダーの運転、最大積載量1t以上の不整地運搬車の運転、作業床の高さ10m以上の高所作業車の運転、つり上げ荷重１ｔ以上のクレーン・移動式クレーンの玉掛けなどが定められています（令20条、則79～83条）。

◇ 中高年齢者等についての配慮

• 事業者は、中高年齢者など労働災害の防止上、就業に当たって特に配慮を必要とする者については、心身の条件に応じ適正配置を行なうよう努めなければいけません（62条）。

〇 健康の保持増進のための措置

◇ 作業環境測定

• 事業者は、所定の有害業務を行う屋内作業場などでは、所定の作業環境測定基準に従って、必要な作業環境測定を行い、その結果を記録しておかなければいけません。（65条）
• 有害業務を行う作業場として、粉じんを著しく発散する屋内作業場、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場、著しい騒音を発する屋内作業場、坑内の作業場などが定められています（令21条）。
• 事業者は、作業環境測定結果の評価を、所定の作業環境評価基準に従って行わなければならず、評価に基づいて労働者の健康保持に必要があると認められるときは、施設・設備の設置や整備、健康診断の実施など適切な措置を講じなければいけません（65条の2）。

◇ 作業の管理

• 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければいけません（65条の3）。
• 事業者は、所定の健康障害を生ずる恐れのある業務（潜水業務、高圧室内業務）に従事させる労働者については、作業時間の基準に違反してはいけません（65条の4）。

◇ 健康診断の実施とその結果への対応

• 事業者は、労働者に対し、医師による次の健康診断を行わなければいけません（66条）。
• 【 雇入時の健康診断 】事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、所定の項目について医師による健康診断を行わなければいけません（労働者が3か月以内に受診した健康診断結果を提出したときを除く）（則43条）。
• 【 定期健康診断 】事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、所定の項目について医師による健康診断を行わなければいけません（則44条）。
• 【 特定業務従事者の健康診断 】事業者は、坑内業務や深夜業など、特定の有害業務に従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際と、6か月以内ごとに1回、定期に、所定の項目（胸部エックス線検査及び喀痰検査は1年以内ごとで足りる）について医師による健康診断を行なわなければいけません（則45条）。
• 【 海外派遣労働者の健康診断 】事業者は、労働者を海外に6か月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、所定の項目及び医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければいけません（則45条の2）。
• 【 給食従業員の検便 】事業者は、食堂や炊事場における給食業務に従事する労働者に対し、雇入れの際や当該業務への配置替えの際、検便による健康診断を行なわなければいけません（則47条）。
• 【 歯科検診 】事業者は、所定の有害な業務（塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸・弗化水素・黄りんなど歯やその支持組織に有害なガス・蒸気・粉じんを発散する場所における業務）に常時従事する労働者に対し、雇入れの際や当該業務への配置替えの際と、6か月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断を行なわなければいけません（66条、令22条、則48条）。
• 【 特殊健康診断 】事業者は、所定の有害な業務（有機溶剤業務、鉛業務、四アルキル鉛等業務、特定化学物質製造等業務、高圧室内業務、潜水業務、放射線業務、除染等業務、石綿粉じん業務）に常時従事する労働者等に、原則として、雇入れの際や当該業務への配置替えの際と、6か月以内ごとに1回、定期に、それぞれ特別の健康診断を実施しなければいけません（有機則29条、鉛則53条、四アルキル鉛則22条、特化則39条、高圧則38条、電離則56条、除染則20条、石綿則40条）。
• 労働者は、安衛法の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければいけません（労働者が他の医師の行なう健康診断を受けその結果を証明する書面を事業者に提出したときを除く）（66条）。
• 事業者は、安衛法の規定による健康診断を受けた労働者に対し、その結果を通知しなければいけません（66条の6）。
• 事業者は、安衛法の規定による健康診断の結果で異常の所見があると診断された労働者について、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければいけません（66条の4）。また、当該医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を取るほか、作業環境測定の実施、施設・設備の設置や整備、医師意見の衛生委員会等への報告など適切な措置を取らなければいけません（66条の5）。
• 事業者は、安衛法の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければいけません（66条の7）。
• 事業者は、安衛法の規定による健康診断の結果について、健康診断個人票を作成して5年間保存しなければいけません（66条の3、則51条）。

◇ 長時間労働者への面接指導

• 事業者は、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1か月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者（一般労働者の他、管理監督者も含む）について、当該労働者から申出があったときは、遅滞なく面接指導を行わなければいけません。ただし、その前の1か月以内に医師の面接指導を受けた労働者で、医師が面接指導を受ける必要がないと認めた者を除きます。（66条の8、則52条の2～3）
• 1週間当たり40時間を超える時間の1か月当たりの時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければいけません（則52条の2）。
• その計算方法は、一般の労働者では、【 １か月の時間外・休日労働時間数＝１か月の総労働時間数（所定労働時間数＋時間外労働時間数＋休日労働時間数）―（１か月間の総暦日数／７）×４０ 】となります。
• 事業者は、1週間当たり40時間を超える時間の算定を行ったときは、速やかに、1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、（疲労の蓄積が認められる労働者の面接指導の申出を促すため）超えた時間に関する情報を通知しなければいけません（則52条の2）。
• 産業医は、要件に該当する労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができます（則52条の3）。
• 医師による面接指導とは、問診などの方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい（66条の8）、面接指導に当たっては、医師は申出を行った労働者に対し、当該労働者の勤務の状況、疲労蓄積の状況、その他の心身の状況について確認を行うものとされています（則52条の4）。
• 労働者は、面接指導を受ける場合は、事業者が行う面接指導を受けなければいけませんが、事業者の指定した医師による面接指導を希望しない場合は、他の医師による面接指導を受け、その結果を証明する所定の内容の書面を事業者に提出することで替えることができます（66条の8、則52条の5）。
• 事業者は、面接指導の結果の記録を作成し 5年間保存しなければいけません（66条の8、則52条の6）。
• 事業者は、面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、遅滞なく医師の意見を聴かなければいけません。また、当該医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を取るほか、医師意見の衛生委員会等への報告など適切な措置を取らなければいけません。（66条の8、則52条の5）
• 事業者は、研究開発業務（労働基準法36条11項＝新技術、新商品、新役務の研究開発に関する業務）に従事する労働者に、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1か月当たり100時間を超えた場合、医師による面接指導を行わなければいけません（66条の8の2、則52条の7の2）。労働者からの申出なしで面接指導を行うことを罰則（120条）付きで義務付けたものです。
• 事業者は、高度プロフェッショナル制度（労働基準法41条の2）の対象労働者に、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間が1か月当たり100時間を超えた場合、医師による面接指導を行わなければいけません（66条の8の4、則52条の7の4）。労働者からの申出なしで面接指導を行うことを罰則（120条）付きで義務付けたものです。
• 事業者は、面接指導を実施するため、タイムカードによる記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録（ログインからログアウトまでの時間）など客観的な方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならず、また、把握した労働時間の記録を3年間保存しなければいけません（66条の8の3、則52条の7の3）。

◇ 心理的な負担の程度を把握するための検査（ストレスチェック）

• 事業者は、常時使用する労働者に対し、年1回、定期に、次の事項について、医師等による心理的な負担の程度を把握するための検査（ストレスチェック）を行わなければいけません。（66条の10、則52条の9）
• 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
• 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
• 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
• 検査を実施できる者は、医師、保健師、所定の研修を修了した歯科医師・看護師等です。また検査を受ける労働者の解雇・昇進・異動に直接権限を持つ者は、検査事務に従事してはいけません。（則52条の10）
• 事業者は、医師等による検査結果の記録作成や、検査事務従事者による記録保存が適切に行われるようしなければいけません（則52条の11）。
• 事業者は、検査を行った医師等から検査を受けた労働者に対し、遅滞なく検査結果が通知されるようにしなければいけません。また、検査を行った医師等は、検査を受けた労働者の同意を得ないで、検査結果を事業者に提供してはいけません。（66条の10、則52条の12）
• 事業者は、労働者の同意を得て、検査を行った医師等から当該労働者の検査結果の提供を受けた場合は、検査結果の記録を作成して5年間保存しなければいけません（則52条の13）。
• 事業者は、検査を行った医師等に、検査結果を一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならず、分析結果を勘案し必要があると認めるときは、当該集団の労働者の心理的負担を軽減するための適切な措置を取るよう努めなければいけません（則52条の14）。
• 事業者は、検査を実施した医師等が心理的負担の程度が高く面接指導を受ける必要があると認めた労働者が、面接指導を受けることを希望すると申し出たときは、遅滞なく医師による面接指導を行わなければいけません。この場合、事業者は、労働者が申出をしたことを理由として、当該労働者に対し不利益な取扱いをしてはいけません（66条の10、則52条の15～16）。
• 面接指導を行う医師は、申出を行った労働者に対し、勤務の状況、心理的な負担の状況、その他心身の状況次について確認を行うものとします（則52条の17）。
• 事業者は、面接指導の結果の記録を作成し5年間保存しなければいけません（66条の10、則52条の18）。
• 事業者は、面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、遅滞なく医師の意見を聴かなければいけません。また、当該医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を取るほか、医師意見の衛生委員会等への報告など適切な措置を取らなければいけません。（66条の10、則52条の19）

◇ 健康診断や面接指導等に関する情報の管理

• 事業者は、安衛法の規定により労働者の心身の状態に関する情報を扱うに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、当該収集の目的の範囲内でこれを保管・使用しなければいけません（本人の同意がある場合など正当な事由がある場合を除きます）。また、事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければいけません。（104条）
• 安衛法の規定による健康診断、面接指導、ストレスチェックなどの実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはいけません（105条）。

◇ 健康管理手帳

• 都道府県労働局長は、粉じん作業、石綿を取り扱う作業など、癌などの重度の健康障害を発生させるおそれのある業務（14業務）に従事したことがあり、従事期間などの一定の要件に該当する者に対し、離職時か離職後に、該当者からの申請に基づき、健康管理手帳を交付するものとします（67条、令47条、則52条の22～60条）。
• 健康管理手帳を所持している者は、健康診断の回数や方法などについて指定を受け、無料で健康診断を受診できます。

◇ 事業者の講ずべきその他の措置

• 事業者は、伝染性の疾病や、心臓・腎臓・肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪する恐れのあるものなどに罹った労働者については、産業医等の意見をきいたうえで、就業を禁止しなければいけません（68条、則61条）。
• 事業者は、室内環境における労働者の受動喫煙を防止するため、適切な措置を取るよう努めなければいけません（68条の2）。
• 事業者は、労働者に対する健康教育や健康相談など、労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に行うよう努めなければいけません。また、労働者は、事業者が行う措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとします。（69条）
• 事業者は、労働者の健康の保持増進を図るため、体育活動やレクレーション活動などについて便宜を供与するよう努めなければいけません（70条）。

◇ 休憩室、休養室等の設置

• 安衛則は、第三編「衛生基準」（則576条～634条）において、事業所の職場環境について基準を設けていますが、休憩室、休養室などについて次のように規定しています。休憩室は努力義務ですが、宿直を置くときは宿直室の設置が義務となります。また、休養室は人数要件に合致すれば義務となっており、特に人数が多い店社（本社・支店等）では留意が必要です。
• 【 休憩室 】事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩設備を設けるように努めなければいけません（則613条）。
• 【 宿直室、仮眠室等 】事業者は、夜間に労働者に睡眠を与える必要のあるとき、又は労働者が就業の途中に仮眠することのできる機会があるときは、適当な睡眠又は仮眠の場所を、男性用と女性用に区別して設けなければいけません（則616条）。
• 【 休養室 】事業者は、常時50人以上又は常時女性30人以上の労働者を使用するときは、労働者が床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければいけません（則618条）。

〇 快適な職場環境の形成

◇ 事業者の快適な職場環境形成の努力義務

• 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的・計画的に行うことにより、快適な職場環境を形成するよう努めなければいけません（71条の2）。
• 快適な作業環境の維持管理（作業場所の空気、温熱条件、照明などの環境を適切な状態に管理する）
• 作業方法の改善（心身に負担の大きい作業を適切に管理改善し作業しやすいよう整備する）
• 労働者の疲労回復のための施設・設備の設置・整備（休憩室等の施設・設備を設置し、清潔で使いやすいよう整備する）
• その他、快適な職場環境の形成（洗面所等の職場生活に必要な施設・設備を設置し、清潔で使いやすいように整備する）

◇ 国の快適職場指針

• 厚生労働大臣は、快適な職場環境の形成を図るため「快適職場指針」を定め、指針に従い事業者等に指導等を行うことができます（７１条の３）。

◇ 快適職場推進計画の認定制度

• 都道府県労働局長は、事業者が「快適職場推進計画」を提出した場合、「快適職場指針」に照らして適切なものであると認めるときは、その認定をすることができます（則61条の3）。
• 快適職場推進計画が認定されると、都道府県労働局長から「快適職場推進計画認定証」が交付され、当該事業場が快適職場づくりに取り組んでいる証となるほか、中小企業において労災保険料メリット制の増減割合を拡大した「特例メリット制(最大45%)」の対象となります。

〇 事業場の安全又は衛生に関する改善措置

◇ 特別安全衛生改善計画

• 厚生労働大臣は、事業者（企業）が安衛法や労基法（一部）などに違反し、「重大な労働災害」（死亡災害もしくは障害等級1～7級の障害が生じる災害）を発生させ、3年以内に別の事業場においても再発防止措置が同様である「重大な労働災害」を発生させた場合は、当該事業者に対し、安全・衛生に関する改善計画（特別安全衛生改善計画）を提出するよう指示することができます（78条、則84条～84条の2）。
• 特別安全衛生改善計画の提出を指示された事業者は、当該計画に、対象事業場、計画期間、実施体制、再発を止措置などを記載し、指示書に記載された提出期限までに提出しなければいけません。
• 事業者は、特別安全衛生改善計画を作成する場合は、過半数組合または労働者の過半数代表者の意見が記載された書類を添付しなければいけません。
• 事業者及びその労働者は、特別安全衛生改善計画を守らなければいけません。
• 厚生労働大臣は、特別安全衛生改善計画が重大な労働災害の再発の防止を図る上で適切でないと認めるときは、事業者に対し変更を指示することができます。
• 厚生労働大臣は、事業者が、改善計画の提出に関する指示に従わなかった場合や改善計画を守っていないと認める場合は、当該事業者に対し勧告を行うことができ、勧告にも従わなかったときは事業者名等を公表することができます。

◇ 安全衛生改善計画

• 都道府県労働局長は、事業場の安全管理体制、施設、安全教育などの面で、労働災害防止を図るため総合的な改善措置を必要とする事業所に対し、当該事業場を「安全衛生管理指定特別指導事業場」として指定し、安全・衛生に関する改善計画（安全衛生改善計画）の作成を指示することができます（79条、則84条の3）。
• 事業者は、安全衛生改善計画を作成する場合は、過半数組合または労働者の過半数代表者の意見を聴かなければいけません。
• 事業者及びその労働者は、安全衛生改善計画を守らなければいけません。

〇 監督等

◇ 計画の届出

• 事業者は、次の機械等を設置・移転・変更しようとするときは、「機械等設置届」を開始日の30日前までに、労働基準監督署長に届け出なければいけません（88条、則85条～86条）。
• 支柱の高さが3.5m以上の型枠支保工
• 高さ及び長さがそれぞれ10m以上の架設通路
• 高さが10m以上の足場（つり足場・張出し足場は高さに関係なく）
• 事業者は、次の機械を設置しようとするときは、「クレーン設置届」「エレベータ設置届」「建設用リフト設置届」を開始日の30日前までに、労働基準監督署長に届け出なければいけません（88条、クレーン則5条、140条、174条）。
• 吊上荷重3t以上のクレーン（吊上荷重0.5t以上3t未満のクレーンは設置報告書）
• 積載荷重1t以上の工事用エレベータ（積載荷重0.25t以上1t未満の工事用エレベータは設置報告書）
• 積載荷重0.25t以上でガイドレール高さが18m以上の建設用リフト
• 事業者は、重大な労働災害を生ずる恐れがある特に大規模な工事として次の工事開始しようとするときは、「建設工事計画届」を開始日の30日前までに、厚生労働大臣に届け出なければいけません（88条、則89条、則91条）。
• 高さが300m以上の塔
• 堤高が150m以上のダム
• 最大支間500m(つり橋は1000m)以上の橋梁
• 長さが3000m以上のずい道
• 長さが1000m以上3000m未満のずい道等で深さが50m以上のたて抗掘削を伴うもの
• ゲージ圧力が0.3メガパスカル以上の圧気工法による作業等
• 事業者は、次の工事を開始しようとするときは、「建設工事計画届」を開始日の14日前までに、労働基準監督署長に届け出なければいけません（88条、則90条～91条）。
• 高さ31mを超える建築物や工作物（橋梁を除く）の建設・改造・解体・破壊
• 最大支間50m以上の橋梁の建設・改造・解体・破壊
• 最大支間30m以上50m未満の橋梁の上部構造の建設・改造・解体・破壊
• ずい道の建設・改造・解体・破壊
• 掘削の高さ又は深さが10m以上である地山の掘削の作業
• 圧気工法による作業
• 石綿等が吹き付けられている耐火建築物・準耐火建築物における石綿等の除去の作業
• 廃棄物の焼却施設に設置された廃棄物焼却炉、集じん機等の設備の解体
• 厚生労働大臣又は労働基準監督署長は、届出が安衛法に違反すると認めるときは、事業者に対し、その届出に係る工事の開始を差し止めたり計画変更を命じることができ、必要があるときは、工事の発注者に対し労働災害の防止について必要な勧告や要請を行うことができます（88条）。

◇ 労働基準監督官等の権限

• 労働基準監督官は、安衛法を施行するため必要があるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿・書類その他の物件を検査し、作業環境測定を行い、検査に必要な限度において無償で製品・原材料・器具を収去することができます（91条）。
• 労働基準監督官は、安衛法に違反する罪について、刑事訴訟法の規定による司法警察員の職務を行ないます（92条）。
• 労働基準監督官は、上司の命を受けて、法に基づく立入検査、司法警察員の職務など法の施行に関する事務を司ります（則95条）。

◇ 報告等（事故報告、労働者死傷病報告）

• 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、安衛法を施行するため必要があるときは、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者などに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命じることができます。また、労働基準監督官は、安衛法を施行するため必要があるときは、事業者や労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命じることができます。（100条）
• 事業者は、次の事故が発生した場合は、遅滞なく「事故報告書」を所轄労働基準監督署長に提出しなければいけません（則96条）。
• 事業場（附属建設物を含む）内での、火災・爆発、研削といしなど高速回転体の破裂、建設物の倒壊等
• クレーンの逸走、倒壊、落下、ジブの折損、ワイヤロープ等の切断
• 移動式クレーンの転倒、倒壊、ジブの折損、ワイヤロープ等の切断
• エレベータの昇降路等の倒壊、搬器の墜落、ワイヤロープの切断
• 建設用リフトの昇降路等の倒壊、搬器の墜落、ワイヤロープの切断
• 事業者は、労働者が、労働災害、その他就業中又は事業場（附属建設物を含む）内における負傷・窒息・急性中毒により死亡又は休業したときは、遅滞なく、「労働者死傷病報告」を所轄労働基準監督署長に提出しなければいけません（則97条）。
• 休業日数4日未満のものは、3か月間（1～3月、4～6月、7～9月、10～12月）における報告書を、それぞれの期間の最後の月の翌月末日までに、労働基準監督署長に提出しなければいけません。

◇ 労働災害発生時の講習受講の指示

• 都道府県労働局長は、労働災害が発生した場合において、再発防止に必要があると認めるときは、当該労働災害に係る事業者に対し、期間を定めて、当該労働災害が発生した事業場の総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、統括安全衛生責任者など労働災害の防止のための業務に従事する者（労働災害防止業務従事者）に講習を受けさせるよう指示することができます。この場合、指示を受けた事業者は、労働災害防止業務従事者に講習を受けさせなければいけません。（99条の2）
• 都道府県労働局長は、就業制限の規定（61条）により業務に就くことができる者が、当該業務について、安衛法に違反して労働災害を発生させた場合、再発を防止するため必要があると認めるときは、その者に対し、期間を定めて、講習を受けるよう指示することができます（99条の3）。

◇ 監督機関に対する労働者の申告

• 労働者は、事業場に安衛法に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるよう求めることができ、この場合、事業者は、労働者に対し、申告をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません（97条）。

〇 雑則

◇ 法令等の周知

• 事業者は、安衛法とそれに基づく命令の要旨を常時各作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により、労働者に周知しなければいけません（101条、則98条の2）。

〇 罰則

◇ 罰則の内容

• 罰則は、検査等の特定業務、機械等の製造・検査、危険物・有害物の製造、免許等の試験などの業務を除き、最も厳しいもので6か月以下の懲役又は50万円以以下の罰金となっており、労働者の危険を防止するための事業者の講ずべき措置に反した場合などが該当します（119条）。この他、50万円以下の罰金刑があります（120条）。

◇ 両罰規定

• 法人の代表者、使用人その他の従業者が、安衛法に定める違反行為をしたときは（116条～120条）、行為者を罰するほか、その法人に対しても罰金刑を科します（122条）。