男女雇用機会均等法の概要と遵守のポイント
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称「男女雇用機会均等法」)の概要と建設業者にとっての法令遵守のポイントについて説明します。
〇 男女雇用機会均等法の概要
◇ 男女雇用機会均等法の目的
男女雇用機会均等法の目的は、雇用分野における男女の均等な機会や待遇の確保を図るとともに、妊娠中及び出産後の女性労働者の就業に関する健康確保を図ることです。
◇ 条文参照
男女雇用機会均等法
(2020/06/01改正施行)
条項
内容
1条~4条
目的、基本的理念等
5条~10条
性差別の禁止等
11条~11条の2
セクハラへの事業主の講ずべき措置
11条の3~11条の4
マタハラへの事業主の講ずべき措置
12条~13条の2
母性健康管理措置等
15条~27条
紛争の解決
28条~32条
雑則
33条
罰則
〇 基本的理念等
◇ 定義
「労働者」とは、事業主に雇用されて働く者で、求職者を含みます。
なお、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、セクハラへの事業主の講ずべき措置、マタハラへの事業主の講ずべき措置、母性健康管理措置については、派遣労働者も対象に含まれます(労働者派遣法47条の2)。
「事業主」とは、会社の場合は法人そのものです。事業主は、その従業者が委任された権限の範囲内で行った行為についても責任を有します。
◇ 基本的理念
男女雇用機会均等法の基本的理念は、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者が母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることです(2条)。
事業主には、男女雇用機会均等法で定める義務のほか、この基本的理念に従って労働者の職業生活の充実を図る努力義務があります(2条)。
〇 性差別の禁止等
◇ 募集・採用における性差別の禁止
事業主は、労働者の募集や採用において、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければいけません(5条)。
募集や採用に当たって、男女のいずれかを対象から排除すること、男女で異なる採用条件とすること、男女で異なる選考方法や基準を設けること、男女のいずれ かを優先すること、男女で異なる情報提供を行うことなどは禁止されます。(「男女雇用機会均等法のあらまし」参照⇒)
厚生労働省(男女雇用機会均等法)
◇ 雇用管理の各ステージにおける性差別の禁止
事業主は、労働者の配置(業務配分や権限付与を含む)、昇進、降格、教育訓練、福利厚生(社内融資や社宅貸与等)、職種や雇用形態の変更、退職勧奨、定年の定め、解雇、労働契約更新(雇止め)について、労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはいけません(6条、則1条)。
配置等、雇用管理の各ステージのいずれの場合においても、対象から男女のいずれかを排除すること、条件を男女で異なるものとすること、能力・資質の有無等を判断する場合の方法や基準を男女で異なる取扱とすること、男女のいずれかを優先することなどは禁止されます。(「男女雇用機会均等法のあらまし」参照)
◇ 間接差別の禁止
事業主は、募集・採用や雇用管理の各ステージにおいて、労働者の性別以外の事由を要件とした場合でも、その要件を満たす男女比率などを勘案すると実質的に性差別となる恐れがある次のものについては、業務遂行上や雇用管理上で特に必要である場合など合理的な理由がない限り、要件とすることはできません(7条、則2条)。
募集・採用で、(合理的な理由なく)身長、体重又は体力を要件とすること
募集・採用、昇進、職種変更で、(合理的な理由なく)転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
昇進で、(合理的な理由なく)転勤経験を要件とすること
◇ 女性労働者についての措置に関する特例
事業主が、男女の均等な雇用機会や待遇確保の改善を目的として女性労働者に行う措置は、ポジティブ・アクションとして、上記の性差別の禁止規定(5~7条)に抵触しません(8条)。
◇ 婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
事業主は、女性労働者の婚姻・妊娠・出産を退職理由とする制度を定めてはいけません(9条)。
事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として解雇してはいけません(9条)。
事業主は、女性労働者に対し、妊娠や出産に関する次のことを理由として、解雇、契約の不更新、退職の強要、契約内容の不利益変更、降格、就業環境の阻害、不利益な自宅待機命令、不就労期間分を超えた賃金不支給、賞与・退職金算定における不利な取り扱い、昇進・昇格の人事考課における不利益な評価、不利益な配置変更、派遣労働者の役務提供拒否などを行ってはいけません(9条、則2条の2)。
妊娠や出産をしたこと。
12条~13条に定める「母性健康管理措置」を求めたり受けたこと。
労基法64条の2に定める「妊産婦の坑内業務への就業制限」や労基法64条の3に定める「妊産婦の危険有害業務への就業制限」に関し、それらのために業務に就くことができないこと、業務に従事しない旨の申出をしたり従事しなかったこと。
労基法65条に定める「産前産後休業」に関し、休業を請求したり休業をしたこと。
労基法65条に定める「妊婦の軽易な業務への転換請求権」に関し、転換を請求したり転換をしたこと。
労基法66条に定める「妊産婦の時間外・休日労働や深夜業などの拒否請求権」に関し、これらを請求したり労働をしなかったこと。
労基法67条に定める「育児時間の請求権」に関し、育児時間を請求したり取得したこと。
妊娠・出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等)により、労務提供ができないことやできなかったこと、労働能率が低下したこと。
妊娠中の女性労働者や出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効となります(9条)。
〇 セクハラへの事業主の講ずべき措置
◇ セクハラの定義と防止措置
事業主は、職場において行われる労働者の意に反する性的な発言や行動により、当該労働者のとった拒否や抵抗などの対応によって当該労働者が労働条件につき不利益を受けること(対価型セクハラ)や、当該労働者の就業環境が不快なものとなることで就業に支障が生じること(環境型セクハラ)のないよう、雇用管理上必要な措置を講じなければいけません(11条)。
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所に限りません。
「労働条件につき不利益を受ける」とは、解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格対象からの除外、不利益な配置転換などを指します。
事業主が雇用管理上講ずべき措置とは、厚生労働大臣の指針により次のようなことが定められており、事業主は、これらを必ず実施しなければいけません。
【 方針の明確化と周知・啓発 】セクハラの内容、セクハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。セクハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
【 相談体制の整備 】相談窓口をあらかじめ定め、相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。 また、広く相談に対応すること。
【 事後の迅速で適切な対応 】事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置と行為者に対する措置を適正に行うとともに、再発防止に向けた措置を講ずること。
【 併せて講ずべき措置 】相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ周知すること。相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
◇ セクハラ相談等を行った労働者に対する不利益取扱いの禁止
事業主は、労働者がセクハラの相談を行ったことや、事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません(11条)。
◇ 自社の労働者等が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力努力義務
事業主は、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合で、他社の事業主からセクハラ防止措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければいけません(11条)。
◇ セクハラ研修実施の努力義務
事業主は、セクハラに対する労働者の関心と理解を深め、労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施などの必要な配慮をするよう努めなければいけません。また、事業主の役員や労働者も、セクハラに対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければいけません(11条の2)
〇 マタハラへの事業主の講ずべき措置
◇ マタハラの定義と防止措置
事業主は、職場において行われる女性労働者に対する次のものに関する発言や行動により、当該労働者の就業環境が不快なものとなることで就業に支障が生じることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備など雇用管理上必要な措置を講じなければいけません(11条の3、則2条の3)。
妊娠や出産をしたこと。
12条~13条に定める「母性健康管理措置」を求めたり受 けたこと。
労基法64条の2に定める「妊産婦の坑内業務への就業制限」や労基法64条の3に定める「妊産婦の危険有害業務への就業制限」に関し、それらのために業務に就くことができないこと、業務に従事しない旨の申出をしたり従事しなかったこと。
労基法65条に定める「産前産後休業」に関し、休業を請求したり休業をしたこと。
労基法65条に定める「妊婦の軽易な業務への転換請求権」に関し、転換を請求したり転換をしたこと。
労基法66条に定める「妊産婦の時間外・休日労働や深夜業などの拒否請求権」に関し、これらを請求したり労働をしなかったこと。
労基法67条に定める「育児時間の請求権」に関し、育児時間を請求したり取得したこと。
妊娠・出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等)により、労務提供ができないことやできなかったこと、労働能率が低下したこと。
事業主が雇用管理上講ずべき措置とは、厚生労働大臣の指針により次のようなことが定められており、事業主は、これらを必ず実施しなければいけません。
【 方針の明確化と周知・啓発 】マタハラの内容、妊娠・出産等に関する否定的な言動がマタハラの背景等となり得ること、マタハラがあってはならない旨の方針、妊娠・出産等に関する制度等の利用ができる旨を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。マタハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
【 相談体制の整備 】相談窓口をあらかじめ定め、相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、マタハラが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、マタハラに該当するか否か微妙な場合等であっても、広く相談に対応すること。
【 事後の迅速で適切な対応 】事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置と行為者に対する措置を適正に行うとともに、再発防止に向けた措置を講ずること。
【 要因を解消するための措置 】業務体制の整備など、事業主や妊娠した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。妊娠等した労働者に対し、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましいこと。
【 併せて講ずべき措置 】相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ周知すること。相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
◇ マタハラ相談等を行った労働者に対する不利益取扱いの禁止
事業主は、労働者がマタハラの相談を行ったことや、事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇など不利益な取扱いをしてはいけません(11条の3)。
◇ マクハラ研修実施の努力義務
事業主は、マタハラに対する労働者の関心と理解を深め、労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施などの必要な配慮をするよう努めなければいけません。また、事業主の役員や労働者も、マタハラに対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければいけません(11条の4)
〇 母性健康管理措置
◇ 保健指導や健康診査を受けるための時間の確保
事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導や健康診査を受診するために必要な時間を、次の通り確保することができるようにしなければいけません(12条、則2条の4)。
健康診査等を受診するために確保しなければならない回数は、妊娠23週までは4週間に1回、妊娠24週から35週までは2週間に1回、妊娠36週以後出産までは1週間に1回であり、また、出産後1年以内は医師等の指示に従って必要な時間を確保することとなっています。ただし、医師や助産師が指示をしたときは、その指示により必要な時間を確保しなければいけません。
◇ 指導事項を守ることができるようにするための事業主の措置
事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導や健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を取らなければいけません(13条)。
医師等の指導事項を的確に事業主に伝えるため、「母性健康管理指導事項連絡カード」があります。事業主は、連絡カードの記載内容に応じ適切な措置を講じる義務があります。
指導事項を守ることができるようにするための措置として、妊娠中の通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮等)、妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩回数の増加等)、妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、休業等の措置)などがあります。
〇 男女雇用機会均等推進者
◇ 男女雇用機会均等推進者の選任努力義務
事業主は、男女雇用機会均等法に定める性差別の禁止、セクハラ及びマタハラの防止措置、母性健康管理措置など、性別にとらわれない人事管理を徹底させ、女性が能力発揮しやすい職場環境をつくる役割を担う者として、「男女雇用機会均等推進者」を選任するように努めなければいけません(13条の2)。
事業主が都道府県労働局に「男女雇用機会均等推進者」を届け出ると、各種セミナーの開催案内をはじめ情報や資料の提供が行われます。
〇 紛争の解決
◇ 苦情の自主的解決
事業主は、男女雇用機会均等法に定める性差別の禁止(労働者の募集・採用を除く)及び母性健康管理措置に定める事項に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関)に対し当該苦情の処理をゆだねるなど、自主的な解決を図るように努めなければいけません(15条)。
◇ 紛争の解決(援助と調停)
都道府県労働局長は、男女雇用機会均等法に定める性差別の禁止、セクハラ及びマタハラの防止措置、母性健康管理措置などに関する労使の紛争について、当事者の双方又は一方から解決の援助が求められた場合は、必要な助言・指導・勧告をすることができます(17条)。
都道府県労働局長は、男女雇用機会均等法に定める性差別の禁止(労働者の募集・採用を除く)、セクハラ及びマタハラの防止措置、母性健康管理措置などに関する労使の紛争について、当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、紛争調整委員会に調停を行わせるものとします(18条)。
〇 行政指導・行政処分等
◇ 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告
厚生労働大臣は、男女雇用機会均等法の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して報告を求め、助言・指導・勧告をすることができます(29条)。⇒罰則あり。
厚生労働大臣は、男女雇用機会均等法に定める性差別の禁止、セクハラ及びマタハラの防止措置、母性健康管理措置などに関する規定に違反している事業主に対し勧告をした場合、勧告に従わなかったときは、企業名を公表することができます(30条)。
〇 罰則
事業主が、厚生労働大臣による報告の求めに対し、報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処します(33条)。