労働基準法の概要と遵守のポイント

〇 労働基準法の概要

◇ 労働基準法の目的

• 労働基準法の目的は、労働者が人たるに値する生活を営むことができるよう、事業主が労働者を使用する際の最低限の労働条件を定めることにより、労働者の保護を図ることです。

◇ 条文参照

• 労働基準法（2020/04/01改正施行）

条項	内容
1条～12条	総則
13条～23条	労働契約
24条～28条	賃金
32条～41条の2	労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
56条～64条	年少者
64条の2～68条	妊産婦等
89条～93条	就業規則
94条～96条の3	寄宿舎
97条～105条	監督機関
106条～116条	雑則
117条～121条	罰則

• 労基則（2019/02/26改正施行）

〇 総則

◇ 労働条件の基本７原則（「労働憲章」）

• ①【労働条件の原則】労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むこと（労働者がその家族も含めて、人として価値のある生活を送ること）ができるものでなければいけません。また、労働基準法は労働の最低条件を定めているもので、その基準があることを理由に労働条件を低下させてはいけません。（1条）
• ②【労使対等の原則】労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきもので、労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守しその義務を履行しなければいけません（2条）。
• ③【均等待遇の原則】使用者は、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由として、労働条件の差別的取扱をしてはなりません（3条）。
• ④【男女同一賃金の原則】使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金の差別的取扱いをしてはいけません（4条）。
• ⑤【強制労働の禁止】使用者は、不当な手段を用いることによって、労働者の意思に反し労働を強制してはいけません（5条）。
• ⑥【中間搾取の排除】何人も、法律で許される場合を除き、業として他人の就業に介入して利益を得てはいけません（6条）。
• ⑦【公民権行使の保障】使用者は、労働者が労働時間中に公民権の行使や公の職務を執行する時間の請求を拒んではいけませんが、行使や執行を妨げない限り請求された時刻を変更することはできます（7条）。

◇ 労働者、使用者、賃金の定義

• 労働基準法上の「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業に使用され（使用者の指揮・命令のもとに労働し）、（その報酬として）賃金を支払われる者です（9条）。同居の親族のみを使用する事業や家政婦などの家事使用人は労働基準法の対象外です（116条）。
• 労働基準法上の「使用者」とは、事業主のほか、事業の経営担当者など、労働者に関する事項について事業主のために行為をする（労働者に対し事業主のために権限を行使する）者も含みます（10条）。即ち、役員や部課長などの上司も、労働者に対し権限を行使する範囲において、使用者とみなされます。
• 労働基準法上の「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与など名称の如何を問わず、労働の報酬として使用者が労働者に支払う全てのものです（11条）。

◇ ★労働者の代表とは

• ★労働基準法では、使用者が就業規則を作成・変更する場合は労働者の代表の意見を聴かなければならず（90条）、また使用者は「３６協定」などの労使協定も労働者の代表と締結しなければなりません（36条等）。この労働者の代表とは、事業場ごとにみて、次のいずれかとなります（以下「過半数組合または労働者の過半数代表者」とします）。
• ①労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合
• ②労働組合がない場合や労働組合があってもその組合員の数が労働者の過半数を占めていない場合には、「労働者の過半数を代表する者」
• ★上記②の「労働者の過半数を代表する者」とは、その事業場の労働者全員の意思に基づいて選出された代表をいいます。過半数を代表する者は、次のいずれにも該当しなければなりません（則6条の2）。
• ①就業規則への意見者または労使協定の締結者を選出することを明らかにしたうえで実施される投票や挙手等の方法による手続きを経て選出された者であること
• ②41条に規定する「管理監督者」でないこと（投票等は「管理監督者」を含む労働者全体で行われる必要があるが、代表者として「管理監督者」はふさわしくないので「管理監督者」ではない者から選ぶ必要がある（「管理監督者」ではない者がいない場合を除く））
• ★使用者は、労働者が過半数代表者であることなどを理由として不利益な取扱いをしてはならず、また、過半数代表者が法に規定する労使協定等を円滑に遂行できるよう配慮する義務があります（則6条の2）。

◇ 平均賃金

• 解雇予告手当や休業手当などの計算の基礎となる平均賃金は、事由発生日（解雇通告日や休業開始日など）の直前の賃金締切日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数（労働日数ではなく、暦日数）で除した金額です。ただし、賃金が時間給、日給、出来高給などで労働日数が少ない場合では、総額を労働日数で除した額の6割に当たる額の方が高い場合はその額を適用します。（12条）
• 期間中に、業務上の負傷・疾病の療養のための休業期間、使用者の責めに帰すべき休業期間、産前産後休業期間、育児休業期間、介護休業期間などがある場合は、その日数及びその期間中の賃金は計算から除外します。
• 賃金の総額には、臨時に支払われた賃金、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金などは算入しません。

〇 労働契約

◇ 基準に達しない労働条件の無効

• 労働契約において、労働基準法で定める基準に達しない労働条件は無効となり、その部分については労働基準法で定める最低基準が適用されます（13条）。

◇ 契約期間

• 労働契約の期間は、期間の定めのない契約や、（建設事業などの）有期事業の場合を除き、原則として3年が上限となりますが、厚労省が定める高度の専門的知識等を有する労働者で当該専門的知識等を必要とする業務に就く者との間に締結される労働契約や、満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約については、5年が上限となります（14条）。

◇ 労働条件の明示

• 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければいけません（15条、則5条）。
• 【必ず明示しなければならない労働条件】
• 契約期間、期間の定めのある労働契約を更新する基準、就業場所、従事業務、始業・終業時刻、所定外労働の有無、休憩時間、休日・休暇、賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払時期、昇給、退職（解雇事由を含む）などに関する事項。
• 【定めがある場合に明示しなければならない労働条件】
• 退職手当の対象労働者、退職手当の決定・計算・支払方法・支払時期、臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額、労働者に負担させるべき食費・作業用品等、安全・衛生、職業訓練、災害補償、業務外の傷病扶助、表彰・制裁、休職などに関する事項。
• 労働者は、明示された労働条件が事実と異なる場合は即時に労働契約を解除できます（15条）。

◇ 賠償予定の禁止、強制貯金の禁止

• 使用者は、労働契約の不履行（労働者の中途退職等）について違約金を定めたり、従業員の損害賠償について予めその金額を定めた契約をしてはいけません（16条）。
• 使用者は、労働契約に附随して強制的に貯蓄の契約をさせたり、貯蓄金を管理する契約をしてはいけません（18条）。
• 労働者の委託を受けて労働者の貯蓄金を管理すること（社内預金等）は、一定の条件（「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面協定と届出、規程の制定と社内周知、所定以上の利子付与、返還請求への遅滞ない対応等）を満たしていれば、問題ありません。

◇ 解雇制限

• 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります（旧労働基準法18条の2から労働契約法16条へ移行）。
• 使用者は、労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間とその後30日間、また産前産後休業期間とその後30日間は解雇できません（19条）。
• 但し、使用者が81条による打切補償（療養開始後3年を経過しても負傷・疾病が治らない場合において平均賃金の1200日分の補償を行うもの）を支払う場合や、天災事変などやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合は、解雇が可能です。
• 使用者は、労働者を解雇する場合は、少くとも30日前に解雇予告をするか、（即時解雇するなら）30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。20日前に解雇予告し、10日分以上の平均賃金を支払うといった併用も可能です。（20条）
• 但し、労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合や、天災事変などやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について監督署の認定を受けた場合は、解雇予告の必要はありません。
• また、日雇労働者（1か月を超えて引き続き使用された場合を除く）、2か月以内（季節的業務は4か月以内）の期間雇用労働者（当該期間を超えて引き続き使用された場合を除く）、試用期間中の者（14日を超えて引き続き使用された場合を除く）についても、解雇予告の必要はありません（21条）。

◇ 退職時等の証明義務及び金品返還義務

• 使用者は、労働者が、退職に当たり使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由（解雇の場合はその理由）について証明書を請求した場合や、解雇予告日から退職日までの間に解雇理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付しなければいけません。（22条）
• 使用者は、上記証明書に労働者の請求しない事項や秘密の記号を記入したり、労働者の就業を妨げることを目的として第三者に国籍・信条・社会的身分・労働組合運動について通信してはいけません。
• 使用者は、労働者の死亡又は退職に当たって権利者の請求があった場合、賃金及び労働者の権利に属する金品（積立金・保証金・貯蓄金等）（これらに争いがある場合は異議のない部分）を7日以内に支払い又は返還しなければいけません（23条）。

〇 賃金

◇ 賃金支払の5原則

• 賃金は、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければいけません（24条）。
• ①通貨払いとは、必ず通貨で支払い現物支給を禁止するということですが、通貨の例外として、労働者の同意を得た場合は銀行口座や証券総合口座への払込みが可能で、退職手当については更に小切手や郵便為替も可能です（則7条の2）。また、現物支給禁止の例外として、労働組合があり労働協約に定めがある場合は、その適用を受ける労働者に限って現物支給も可能です。
• ②直接払いとは、中間搾取を防ぐためであり、親方、仲介人、代理人などはもとより、親権者、後見人、譲渡人などに対しても支払ってはいけません。
• ③全額払いとは、分割払いや賃金から（任意に）控除ができないということですが、控除の例外として、法令に定める税金・社会保険料などや、「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面協定があるものについては、賃金から控除できます（24条）。
• ④毎月１回以上払いと⑤一定期日払いの例外として、臨時に支払われる賃金や賞与などがあります（24条）。

◇ 賃金に関するその他の定め

• 使用者は、労働者から、労働者又はその収入によって生計を維持する者の出産・疾病・災害・結婚・死亡など非常時の費用に充てるため請求があった場合は、支払期日前でも既に働いた分の賃金を支払わなければいけません（25条、則9条）。
• 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、使用者は、休業期間中、当該労働者に平均賃金の60/100以上の休業手当を支払わなければいけません（26条）。休業期間中の休日や、労働者の責に帰すべき事由（ストライキや業務外疾病など）による休業については、支払義務はありません。
• 使用者は、出来高払制や請負制で使用する労働者に対し、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければいけません（27条）。
• 最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分については無効となり、最低賃金が適用されます（28条、最低賃金法4条）。

〇 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇

◇ 法定労働時間・法定休日

• 使用者は、労働者に、休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて、1日について8時間を超えて、労働させてはいけません（32条）。
• 1週間とは、就業規則で定めがない場合は、「暦週」（日曜日から土曜日）となります。
• 1日とは、午前0時から午後12時までの「暦日」となりますが、勤務が2暦日にまたがる場合は、1勤務として取り扱い、始業時刻の属する日の労働となります。

◇ 変形労働時間制

• 【1か月単位の変形労働時間制】使用者は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面協定又は就業規則がある場合は、1か月（もしくは1か月以内の一定期間）を平均し1週間の労働時間が40時間を超えなければ、協定で定めた特定の1週間において40時間を超えたり、特定の1日において8時間を超える労働をさせることができます。ただし、監督署への届出が必要です。（32条の2）
• 【1年単位の変形労働時間制】使用者は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」と所定の事項を定めた書面による協定がある場合は、その協定で対象期間として定められた期間（1か月を超え1年以内の期間）を平均し1週間の労働時間が40時間を超えなければ、協定で定めた特定の1週間において40時間を超えたり、特定の1日において8時間を超える労働をさせることができます。ただし、1日及び1週間の労働時間の限度などが定められており、また監督署への届出が必要です。（32条の4）

◇ フレックスタイム制

• 使用者は、就業規則等の定めにより、日々の始業・終業時刻を労働者が自ら決めることのできるとした労働者については、「過半数組合または労働者の過半数代表者」と所定の事項を定めた書面による協定がある場合は、清算期間（上限3か月）として定められた期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えなければ、1週間において40時間を超えたり、1日において8時間を超える労働をさせることができます（32条の3）。
• 労使協定において定める事項は、①対象となる労働者の範囲、②清算期間、③清算期間における総労働時間、④標準となる１日の労働時間、⑤コアタイム※、⑥フレキシブルタイム※です。
• 清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき一定の時間数を定める期間のことで、清算期間における総労働時間は、労働契約上、労働者が清算期間において労働すべき所定労働時間数となります。これまで清算期間の上限は1か月となっていましたが、2019/4施行の法改正により上限は3か月となりました。ただし、清算期間が１か月を超える場合には、１か月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないという制限が加わり、また労使協定を監督署へ届け出る必要もあります。
• ※労働者が１日のうちで必ず働かなければならない時間帯をコアタイム、労働者が自らの選択によって労働時間を決定することができる時間帯をフレキシブルタイムと呼びますが、労使協定で設定するかどうかは任意です。

◇ 災害時の時間外労働等

• 使用者は、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合は、行政官庁の許可を受けて（事態急迫で許可を受ける暇がない場合は事後に遅滞なく届け出ることで）、法定労働時間を超えて労働させたり、休日に労働させることができます（33条）。

◇ 休憩

• 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少くとも45分、8時間を超える場合は少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければいけません（34条）。
• 休憩時間は原則として一斉に与えなければいけませんが、「過半数組合または労働者の過半数代表者」と協定を締結することで、一斉に与えないことも可能です。
• 休憩時間は自由に利用させなければいけません。例えば電話当番を命じると、待機時間も含め労働していたものとみなされます。

◇ 休日

• 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日（法定休日）を与えなければいけません（35条）。
• 4週間で4日以上の休日を与えることでも構いませんが、その場合は、就業規則にその旨と4週間の起算日を記載する必要があります。
• 週休2日制の会社の場合は、日曜を法定休日とすれば、土曜は法定外休日となります。

◇ 「３６協定」による労働時間の延長

• 使用者は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」と書面による「時間外労働・休日労働に関する協定」（いわゆる「３６協定」）を締結し、1日、1か月、1年のそれぞれについて法定労働時間を延長して労働させることができる時間や休日数を監督署に届け出た場合は、協定で定めた範囲で時間外労働や法定休日労働をさせることができます（36条）。「３６協定」は、事業場ごとに締結する必要があり、協定の期間は1年間です。
• ★「３６協定」は、2019年4月から一般条項の場合と特別条項付きの場合に分けて「３６協定届」として新様式が定められています。新様式の特徴として、「法定労働時間を超える時間数」や「労働させることができる法定休日の日数」が必須記載項目となり、あくまで「３６協定」は法定外の時間外労働や休日労働に関する協定であることが明確化されています。「所定労働時間」「所定労働時間を超える時間数」「所定休日」の欄もありますが、任意記載項目となりました。新様式は、厚生労働省（３６協定届）を参照してください。
• ★一般条項の協定（特別条項なしの協定）は、事業場において通常予見される時間外労働の範囲内において締結でき、法定時間外労働をさせることができる「限度時間」は、次の通りです。
• ★1か月45時間、1年360時間以内（法定休日労働を含まない）。1年単位の変形労働時間が適用される労働者は、1か月42時間、1年320時間以内。
• ★特別条項付きの協定は、事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に上記「限度時間」を超えて労働させる必要がある場合に締結でき、法定時間外労働をさせることができる上限時間は次の通りです。
• ★1か月100時間未満（法定休日労働を含む）、１年720時間以内（法定休日労働を含まない）。ただし、1か月に45時間を超えることができるのは、１年について6か月以内。
• ★特別条項付きの協定では、限度時間内の時間外労働についての届出書（1枚目）と、限度時間を超える時間外労働についての届出書（2枚目）の2枚の記載が必要です。特に2枚目には、臨時的に限度時間を超えて労働させる場合の具体的な特別の事情、その手続、健康・福祉を確保するための措置などを記述する必要があります。
• 使用者は、「３６協定」によって法定時間外労働や法定休日労働させる場合、次の要件を満たさなければいけません。
• 坑内労働、異常気圧下業務、削岩機等使用業務など、健康上特に有害な業務について、1日に法定時間外労働が2時間を超えないこと。
• ★法定時間外労働と法定休日労働の合計が、1か月100時間未満であること。（災害の復旧・復興の事業に関しては適用されません。）
• ★法定時間外労働と法定休日労働の合計が、直前2～6ヶ月ごとの平均で全て80時間以内であること。（災害の復旧・復興の事業に関しては適用されません。）
• 建設事業等においては、経過措置として、2024年3月31日までの間は、上記★印の規定が適用されません（附則139条）。この場合、「３６協定届」も従来の様式で届け出ます。
• なお、経過措置がなくなり上限規制が適用されるのは、2024年4月1日以後の期間のみを定めた「３６協定」からですので、対象期間に2024年3月31日を含み期間の終了日が2024年4月1日以後の「３６協定」は、当該終了日まで有効です。
• 研究開発業務（新技術、新商品、新役務の研究開発に関する業務）に従事する労働者については、上限時間や限度時間の規定が適用されません（36条11項）。※時間外・休日・深夜労働による割増賃金は支払う必要があります。

◇ 時間外・休日・深夜労働による割増賃金

• 使用者が、「３６協定」により、時間外労働や法定休日労働をさせた場合は、通常の賃金に加え、基礎賃金に次の率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければいけません（37条）。
• （企業の所定労働時間が法定労働時間より短い場合、）所定時間外労働ではあるが法定時間外労働ではない労働時間（法定内時間外労働時間）の割増率＝0%（割り増す必要はない。）
• （１日に8時間、１週間に40時間を超える）法定時間外労働時間（1か月60時間以下）の割増率＝25%
• （１日に8時間、１週間に40時間を超える）法定時間外労働時間（1か月60時間超え）の割増率＝50%（時間数の計算に法定休日労働は含まない。中小企業（建設業では資本金3億円以下または労働者数300人以下）は現在猶予されており、2023年4月から適用される。）
• 法定休日労働時間の割増率＝35%（例えば1週間が日曜から土曜の場合で、当該1週間に1日も休日がなかった場合は土曜が法定休日労働となる。法定休日労働で1日8時間を超えた場合も割増率は同じ35%である。）
• 深夜（午後10時～午前5時）労働時間の割増率＝25%（深夜労働の割増率は、他の割増率に加算される。例えば、法定時間外労働が深夜に及んだ場合の割増率は25%＋25%＝50%となり、法定休日労働が深夜に及んだ場合の割増率は35%＋25%＝60%となる。）
• 割増賃金の計算に使用する基礎賃金には、労働と直接的な関係が薄く個人的事情に基づいて支給されているものとして、次のものは算入しません（則21条）。
• 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間に対し支払われる賃金

◇ 労働時間の計算

• （複数の会社で働くなどにより）事業場を異にする場合も、労働時間を通算して規定が適用されます（38条）。
• 坑内労働は、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなします。このとき休憩の一斉付与と休憩時間の自由利用の定めは適用されません。（38条）

◇ 事業場外みなし労働時間制

• 事業場外で勤務した場合で、労働時間を算定することが難しいときは、所定労働時間を労働したものとみなされます。ただし、所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は、当該業務を遂行するために通常必要な時間（事業場外労働に関し「過半数組合または労働者の過半数代表者」と書面による協定がある場合は協定で定めた時間）の労働をしたものとみなします。なお、使用者は、協定を定めた場合は、監督署に届け出る必要があります。（38条の2）

◇ 専門業務型裁量労働制

• 対象業務は、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、遂行手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務として19種に限定されており、建設業関係では、新商品・新技術の研究開発、室内装飾のデザイナー、インテリアコーディネーター、建築士、不動産鑑定士などが該当します。
• 使用者が、「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面による協定で、対象業務、労働時間として算定される時間（みなし労働時間）、業務の遂行手段や時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこと、労働者の健康・福祉確保措置、労働者からの苦情処理措置などの所定事項を定めた場合において、労働者を対象業務に就かせたときは、労働者は当該みなし労働時間を労働したものとみなされます。なお、協定は監督署に届け出る必要があります。（38条の3）

◇ 企画業務型裁量労働制

• 労使委員会（使用者及び労働者の代表者を構成員とし、賃金・労働時間などの労働条件を調査審議し事業主に意見を述べることを目的とする委員会）が設置されている事業場が対象です。なお、委員の半数は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」に任期を定めて指名されている必要があり、委員会の議事は、所定の議事録として作成・保存され労働者への周知も必要です。
• 対象業務は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務で、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、遂行手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務です。具体的には、厚労省の指針があり、経営企画担当部署、人事・労務担当部署、財務・経理担当部署、広報担当部署、営業企画担当部署及び生産企画担当部署における対象業務が例示されています。
• 対象労働者は、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者に限られます。また、使用者は、次の手続により対象労働者の範囲が決められた場合も、対象労働者から個別に同意を得なければならず、同意しなかった労働者に対する不利益取扱いも禁止されています。
• 労使委員会で5分の4以上の賛成により、対象業務、対象労働者の範囲、労働時間として算定される時間（みなし労働時間）、労働者の健康・福祉確保措置、労働者からの苦情処理措置などの所定事項を決議し、使用者が、当該決議を監督署に届け出て、対象労働者を対象業務に就かせたときは、当該労働者は当該みなし労働時間を労働したものとみなされます。なお、労働者の健康・福祉確保措置については、定期的に実施状況を監督署に報告する必要があります。（38条の4）

◇ 高度プロフェッショナル制度

• 労使委員会（「企画業務型裁量労働制」参照）が設置されている事業場が対象です。
• 対象業務は、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と成果との関連性が通常高くないと認められる業務です。具体的には、金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務など5つの業務が規定され、なおかつ使用者から具体的な指示を受けないものとされています（則34条の2）。
• 対象労働者は、対象業務に常態として従事している労働者で、使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていることと、賃金額が基準年間平均給与額の３倍を上回る額（1,075万円）以上であることが条件です。また、使用者は、次の手続により対象労働者の範囲が決められた場合も、対象労働者から個別に同意を得なければならず、同意しなかった労働者に対する不利益取扱いも禁止されています。
• 労使委員会で5分の4以上の賛成により、対象業務、労働時間の把握措置、休日の付与（1年間に104日以上かつ4週間に4日以上）、健康管理措置の選択付与、健康・福祉の確保措置、同意の撤回に関する手続、労働者からの苦情処理措置などの所定事項を決議し、使用者が、当該決議を監督署に届け出て、対象労働者を対象業務に就かせたときは、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は適用されません。なお、休日の付与、健康管理措置の選択付与、健康・福祉の確保措置については、実施状況を監督署に報告する必要があります。（41条の2）

◇ 年次有給休暇

• 使用者は、雇入日から6か月間継続勤務した労働者に対して、10日の有給休暇を与えなければいけません（ただし6か月間の出勤率が8割未満の者を除きます）。また、使用者は、1年6か月以上継続勤務した労働者に対しては、6か月経過日から継続勤務年数1年ごとに、当該年数に応じ次表の日数の有給休暇を与えなければいけません（ただし直前1年間の出勤率が8割未満の者を除きます）。（39条）

6か月経過日からの勤務年数	有給休暇日数
1年	11日
2年	12日
3年	14日
4年	16日
5年	18日
6年以上	20日

• ただし、1週間の所定労働時間が30時間未満、かつ1週間の所定労働日数が4日以下（週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は1年間の所定労働日数が216日以下）の労働者の有給休暇日数は、上記有給休暇日数を当該労働者の所定労働日数と通常の労働者の所定労働日数との比率で計算して「比例付与」されます。
• なお、出勤率の計算に当たって、業務上の負傷・疾病の療養のための休業期間、産前産後休業期間、育児休業期間、介護休業期間については、出勤したものとみなされます。
• 使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければいけませんが、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季にこれを与えることができます（39条）。
• 【年休の時間単位取得】使用者は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面による協定で、対象労働者の範囲、時間単位で付与できる日数（1年間で最大5日）、1日分の有給休暇に対応する時間数（時間単位に切り上げ）などの所定事項を定めた場合、時間単位で有給休暇を与えることができます（39条）。
• 【年休の計画的付与】使用者は、「過半数組合または労働者の過半数代表者」との書面による協定により、有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、有給休暇日数のうち5日を超える部分は、その定めにより有給休暇を与えることができます（39条）。
• 【年休の時季指定】使用者は、年次有給休暇日数が10日以上の労働者について、そのうち5日については付与した日から1年以内に、労働者ごとに時季指定して与えなければいけませんが、労働者自らの請求もしくは使用者の計画的付与によって既に取得した有給休暇の日数分については時季指定は不要です（39条）。
• 使用者は、有給休暇の期間又は時間について、平均賃金もしくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払わなければいけません（39条）。

◇ 労働時間等に関する規定の特例及び適用除外

• 建設業などは対象外ですが、事業の種類によっては、労働時間及び休憩に関する規定について、特例が定められています（40条）。例えば、常時10人未満の労働者を使用する物品販売業などでは、1週間について44時間まで労働させることができます（則25条の2）。
• 労働時間、休憩及び休日に関する規定は、管理監督者、監視労働や断続的労働の従事者（監督署の許可を受けたもの）、農業及び漁業従事者などには適用されません（41条）。
• 「管理監督者」
• 管理監督者であることの判断基準は、①労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること、②出退勤をはじめとする労働時間に裁量権を有していること、③一般の従業員に比して地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること、とされています。
• 管理監督者には、労働時間や休日に関する規定が適用されませんので、時間外労働や法定休日労働というものもなく、従って時間外手当も法定休日手当も支給する必要がありませんが、深夜労働の割増賃金に関する規定は適用除外されませんので、深夜時間帯に労働した場合は割増分（基礎賃金の25%）を支払う必要があります。また、休暇に関する規定も適用除外されませんので、年次有給休暇も規定通り与える必要があります。
• 「宿日直勤務者」
• 宿日直勤務とは、常態としてほとんど労働する必要のない勤務のことで、定期的巡視、緊急の電話・文書の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限られます。夜間に行うのが「宿直」で、宿泊を伴うため宿泊設備（宿直室等）が必要となります（安衛則616条）。また、土日や祝日などの日中に行うのが「日直」です。
• 使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、監督署に「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」を提出し、許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法定労働時間の規定にかかわらず、使用することができます（則23条）。（36協定なしで週40時間を超えて勤務させることができ、割増賃金を支払う必要もありません。）
• ただし、許可を受けるには、宿日直手当の支給（宿日直に就く労働者の1日平均賃金額の3分の1以上）、宿直については睡眠設備があること、回数制限（宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とする）などの許可基準を満たす必要があります。

〇 年少者、妊産婦等

◇ 年少者の就業制限

• 使用者は、児童（満15歳に達した日以後の最初の3月31日までにある者＝中学生以下）を労働者として使用してはいけません。ただし、建設業などの工業的業種は対象外ですが、満13歳以上の児童については、児童の健康・福祉に有害でなく、軽易な業務は、監督署の許可を受けて、修学時間外に使用することができます(映画・演劇は満13歳未満の児童でも使用可)。（56条）
• 使用者は、満18歳未満の年少者を使用する場合には、その者の年齢を証明する証明書を事業場に備え付けなければいけません（57条）。
• 親（あるいは後見人）が、未成年者（満20歳未満の者）に代わって労働契約を締結したり、未成年者の賃金を代わって受取ることは禁止されています。なお、親（あるいは後見人）又は監督署長は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合は、将来に向かって解除することができます。（58～59条）
• 満18歳未満の年少者には、「３６協定」を締結している場合でも、法定労働時間を延長して労働させたり、法定休日労働をさせることはできず、また、変形労働時間制やフレックスタイム制も適用できません。ただし、満15歳以上の年少者には、週40時間を超えない範囲で1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮することで他の日の労働時間を10時間まで延長することや、週48時間かつ1日8時間を超えない範囲で変形労働時間制によって使用することは可能です。なお、児童については、修学時間を通算して週40時間まで、かつ修学時間を通算して1日7時間までしか労働させることはできません。(60条）
• 使用者は、満18歳未満の年少者を深夜（午後10時～午前5時（児童の場合は午後8時～午前5時））に使用してはいけません。ただし、深夜に使用できる例外として、交替制によって満16才以上の男性を使用する場合、監督署の許可を受けて交替制によって午後10時30まで又は午前5時30分から労働させる場合、災害等による臨時の必要がある場合、農林水産業・保健衛生業・電話交換業に従事する場合が規定されています。（61条）
• 使用者は、満18歳未満の年少者を、危険有害業務に就かせてはいけません（62条）。
• 使用者は、満18歳未満の年少者を坑内で労働させてはいけません（63条）。
• 使用者は、満18歳未満の年少者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合は、必要な旅費を負担しなければいけません（年少者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、監督署の認定を受けた場合を除く）（64条）。

◇ 妊産婦等の就業制限

• 使用者は、妊娠中の女性や坑内業務に従事しない旨を申し出た産後1年を経過しない女性を坑内業務に就かせてはいけません。また、坑内で行われる業務のうち人力掘削業務などの有害業務を女性に就かせてはいけません。（64条の2）
• 使用者は、妊産婦（妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性）を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務、その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはいけません。妊産婦以外の女性についても、妊娠・出産に係る機能に有害である業務に就かせてはいけません。（64条の3、女性労働基準規則）
• 使用者は、6週間（多胎妊娠の場合は14週間）以内に出産予定の女性が休業を請求した場合、及び産後8週間を経過しない女性を就業させてはいけません（産後6週間を経過した女性が請求し医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えありません）。ただし、使用者は、妊娠中の女性が請求した場合は、他の軽易な業務に転換させなければいけません。（65条）
• 使用者は、妊産婦が請求した場合は、「36協定」を締結していても時間外労働や法定休日労働をさせてはならず、変形労働時間制を採用していても週40時間1日8時間を超えて労働させてはならず、また深夜業をさせてもいけません（66条）。
• 生後満1年に達しない生児を育てる女性は、通常の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができ、使用者はその時間中はその女性を使用してはいけません（67条）。
• 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはいけません（68条）。

〇 災害補償

◇ 災害補償の概要

• 使用者は、労働者が就業中又は事業場（附属建設物を含む）内で負傷したり、疾病にかかったり、死亡した場合は、遅滞なく医師に診断させなければいけません（則37条）。
• 【 療養補償 】使用者は、労働者が業務上負傷したり疾病（業務との因果関係があると認められている所定の職業性疾病）にかかった場合、使用者の費用で必要な療養を行うか、必要な療養の費用を負担しなければいけません（75条、則35条～36条）。
• 【 休業補償 】使用者は、労働者が業務上負傷したり疾病にかかり、その療養のため労働することができず賃金を受けない場合は、労働者の療養中、平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければいけません（76条、則38条）。
• 療養補償及び休業補償は、毎月1回以上、これを行わなければいけません（則39条）。
• 【 障害補償 】使用者は、労働者が業務上負傷したり疾病にかかり、治った場合、その身体に障害があるときは、その障害の程度に応じて平均賃金に所定の日数を乗じた金額の障害補償を行わなければいけません（77条、則40条）。
• 障害補償を行うべき身体障害の等級は、「身体障害等級表」（1級～14級）によります（則40条）。
• 障害補償は、労働者の負傷又は疾病が治った（症状が固定した）後、身体障害等級が決定した日から7日以内に行わなければいけません（則47条）。
• 労働者が重大な過失によって業務上負傷したり疾病にかかり、使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合は、休業補償や障害補償を行わなくても構いません（78条、則41条）。
• 【 遺族補償・葬祭料 】使用者は、労働者が業務上死亡した場合は、遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければいけません（79条）。また、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければいけません（80条）。
• 遺族補償を受ける者は、第一順位は配偶者となります（第二順位以降は、生計を維持していたか生計を一にしていた子、父母、孫及び祖父母などとなります）（則42条～43条）。
• 遺族補償及び葬祭料支払は、労働者の死亡後、遺族補償及び葬祭料を受けるべき者が決定した日から7日以内に行わなければいけません（則47条）。
• 【 打切補償 】使用者は、療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷や疾病が治らない場合は、平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくても構いません（81条）。
• 打切補償を行うことで、労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために休業する期間とその後30日間は解雇できないとしている解雇制限（19条）がなくなります。
• 補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません。また、補償を受ける権利は、譲渡や差し押えはできません。（83条）

◇ 労災保険給付による免責

• 使用者は、労働者が業務上負傷したり疾病にかかった場合、労基法の災害補償に相当する給付が労災保険で行なわれる場合は、その範囲で補償責任を免除されます（84条）。
• 労基法の災害補償に相当する給付で、労災保険でカバーされないものとして、労災保険法は休業補償を休業4日目から支給する（労災保険法14条）としており、このため使用者は、休業補償のうち休業後最初の3日間分を別途支払わなくてはいけません。この他の災害補償給付については、労災保険でカバーされています。
• 使用者は、労基法による補償を行った場合（労災保険で補償給付された場合を含む）は、同一事由については、補償した金額の範囲で損害賠償責任を免れます（84条）。
• （訴訟や示談等により決定した）使用者の損害賠償額が、労災保険等で補償を行った金額より多かった場合は、使用者はその差額を支払うことになります。

◇ 請負事業の一括

• 建設事業が数次の請負によって行われる場合は、災害補償については、元請負人を使用者とみなします(87条、則48条の2）。
• 労働保険徴収法ではその適用について、「建設事業が数次の請負によって行われても一つの事業とみなし、元請負人のみを事業主とする」と定められています（労働保険徴収法8条）。
• また、労働保険徴収法では、「元請負人及び下請負人が、当該下請負人の請負に係る事業に関して請負事業の一括の適用を受けることにつき申請をし、厚生労働大臣の認可があつたときは、当該下請負人を元請負人とみなす」と定められています（労働保険徴収法8条）。

〇 就業規則

• 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、監督署に届け出なければいけません。変更した場合も、同様です（89条）。就業規則に記載する内容には、必ず記載しなければならない事項（絶対的必要記載事項）と、当該事業場で定めをする場合に記載しなければならない事項（相対的必要記載事項）があります。
• 【絶対的必要記載事項】
• 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合には就業時転換に関する事項
• 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
• 退職に関する事項（解雇の事由を含む）
• 【相対的必要記載事項】
• 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項
• 臨時の賃金（賞与）、最低賃金額に関する事項
• 食費、作業用品などの負担に関する事項
• 安全衛生に関する事項
• 職業訓練に関する事項
• 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
• 表彰、制裁に関する事項
• その他全労働者に適用される事項
• 使用者は、就業規則の作成・変更において、「過半数組合または労働者の過半数代表者」の意見を聴き、監督署へ届け出る就業規則に意見書を添付しなければいけません（90条）。
• 就業規則で労働者に対し減給の制裁を定める場合は、１回の事案に対する減給額が平均賃金の1日分の半額を超え、複数の事案に対する減給総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはいけません（91条）。
• 就業規則は、労働基準法や労働協約に反してはならず、監督署は労働基準法や労働協約に抵触する就業規則の変更を命じることができます（92条）。

〇 寄宿舎

• 使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならず、寮長・室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してもいけません（94条）。
• 使用者は、事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる場合、所定の事項を定めた寄宿舎規則を作成し、寄宿者の過半数代表者の同意を証明する書面を添付して監督署に届け出なければいけません。寄宿舎規則を変更した場合も同様です。使用者及び寄宿者は、寄宿舎規則を遵守しなければいけません。（95条）
• 使用者は、事業の附属寄宿舎について、厚生労働省令で定める換気、採光、照明、保温、防湿、清潔、避難、定員の収容、就寝に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければいけません（96条）。
• 使用者は、常時10人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置・移転・変更しようとする場合は、危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手14日前までに、監督署に届け出なければいけません。監督署は、労働者の安全・衛生に必要と認める場合は、工事着手を差し止めたり、計画変更を命じることができます。（96条の2）
• 監督署は、附属寄宿舎が安全・衛生に関し定められた基準に反する場合は、使用者に対して、その全部又は一部の使用停止や変更など必要な事項を命じることができます（96条の3）。

〇 監督機関

◇ 労働基準監督官の職務と権限

• 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎などの附属建設物に臨検し、帳簿や書類の提出を求めたり、使用者や労働者に対して尋問を行うことができます（101条）。
• 労働基準監督官は、労働基準法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行います（102条）。
• 監督署及び労働基準監督官は、労働基準法を施行するために必要なときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命じることができます（104条の2）。

◇ 監督機関に対する労働者の申告

• 労働者は、事業場に労働基準法又は労働基準法に基いて発する命令に違反する事実がある場合は、その事実を監督署や労働基準監督官に申告することができ、この場合、使用者は、申告をしたことを理由として労働者に解雇などの不利益な取扱をしてはいけません（104条）。

〇 雑則

◇ 就業規則等の周知

• 使用者は、就業規則や「３６協定」などを、常時各作業場の見やすい場所へ掲示するなどの方法によって、労働者に周知しなければいけません（106条）。
• 使用者は、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示するなどの方法によって、寄宿者に周知しなければいけません（106条）。

◇ 労働者名簿や賃金台帳の作成・保存

• 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿（日雇い労働者を除く）を作成し、労働者の氏名、生年月日、履歴などの所定事項を記入しなければいけません。また、変更があった場合では、遅滞なく訂正しなければいけません。（107条）
• 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を作成し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金額など所定の事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければいけません（108条）。
• 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金など労働関係に関する重要な書類を5年間（【経過措置】により3年間）保存しなければいけません（109条）。

◇ 未払賃金の支払

• 裁判所は、解雇予告手当、休業手当、時間外手当、休日労働手当、深夜労働の割増賃金、有給休暇分の賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、未払金のほか、それと同一額の付加金の支払を命じることができます。ただし、この請求は、違反の時から5年（【経過措置】により3年）以内にしなければいけません。（114条）
• 労働基準法の規定による賃金請求権は、行使することができる時から5年間（【経過措置】により、退職手当の請求権は5年間、賃金（退職手当を除く）の請求権は3年間）行わない場合は、時効によって消滅します（115条）。
• 【経過措置】109条の規定の適用については、当分の間、同条中「5年間」とあるのは、「3年間」とする。114条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「5年」とあるのは、「3年」とする。115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権は5年間」とあるのは、「退職手当の請求権は5年間、賃金（退職手当を除く）の請求権は3年間」とする。（附則143条）

〇 罰則

◇ 罰則の内容

• 罰則は、最も厳しいもので1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金となっており、強制労働の禁止に反した場合が該当します（117条）。この他、１年以下の懲役又は50万円以下の罰金、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、30万円以下の罰金刑があります（118～120条）。

◇ 両罰規定

• 労働基準法に違反をした者が、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合は、事業主に対しても罰金刑を科します。ただし、事業主（事業主が法人である場合はその代表者）が違反防止に必要な措置をした場合は、この限りでありません。（121条）
• 事業主が違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講じなかった場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかった場合又は違反を教唆した場合は、事業主も行為者として罰します（121条）。