下請法の概要と遵守のポイント

〇 下請法の概要

◇ 下請法の目的

• 下請法の目的は、親事業者（委託者）の下請事業者（受託者）に対する取引を公正にすることで、下請事業者の利益を保護することにあります。このため、委託内容に関する書面の交付義務、下請代金の支払時期の規制、その他の親事業者の遵守事項などが定められています。独禁法の補完法として制定され、独禁法より簡易な手続で親事業者の優越的地位の濫用行為を除去したり未然防止することを図っています。

◇ 条文参照

• 下請法（2009/06/10改正）

条項	内容
1条～2条	目的、定義
2条の2	下請代金の支払期日
3条	書面の交付
4条～5条	親事業者の遵守事項
6条～9条	親事業者に対する勧告等
10条～12条	罰則

〇 下請法が対象とする業務の範囲及び親事業者・下請事業者の関係

◇ 下請法が対象とする業務の範囲

• 下請法が対象とする業務は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」（以下、まとめて「製造委託等」といいます）の4つです（2条）。
• 「製造委託」とは、物品の販売又は製造を行う事業者が、規格・品質・形状・デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することです。　※下請法の「物品」には家屋などの不動産は含まれません。
• 「修理委託」とは、事業者が、請け負った物品の修理、あるいは自ら使用する物品の修理について、その全部または一部を他の事業者に委託することです。
• 「情報成果物作成委託」とは、情報成果物（プログラム、映像コンテンツ、設計図、広告、各種デザインなど）の提供や作成を行う事業者が、その全部または一部の作成作業を他の事業者に委託することです。
• 「役務提供委託」とは、各種サービス（運送、倉庫保管、情報処理、清掃、ビルメンテナンスなど）を提供する事業者が、そのサービスの全部または一部の提供を他の事業者に委託することです。　※建設工事については、建設業法の規制があり、下請法の対象外です。

◇ 下請法が対象とする親事業者・下請事業者の関係

• 下請法は、次の通り、業務内容に応じ、親事業者の資本金が下請事業者の資本金より一定の範囲で大きい場合において、親事業者に優越的地位があるとして、適用されます（2条）。
• 「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託のうちプログラム」、「役務提供委託のうち運送、倉庫保管、情報処理」では、
• 資本金3億円超えの親事業者が、資本金3億円以下の下請事業者に対し委託する場合に適用されます。
• 資本金3億円以下1千万円超えの親事業者が、資本金1千万円以下の下請事業者に対し委託をする場合に適用されます。
• 「情報成果物作成委託のうちプログラムを除くもの」、「役務提供委託のうち運送、倉庫保管、情報処理を除くもの」では、
• 資本金5千万円超えの親事業者が、資本金5千万円以下の下請事業者に対し委託する場合に適用されます。
• 資本金5千万円以下1千万円超えの親事業者が、資本金1千万円以下の下請事業者に対に対し委託する場合に適用されます。

◇ 親子の資本関係にある場合の規定

• 親会社が、資本関係にある子会社を通じて下請事業者に再委託したとしても、当該子会社が、親会社から実質的に支配を受けている、親会社から受けた委託の5割以上を再委託している、親会社が直接下請事業者に委託すれば下請法の規制の対象となるなどの要件に当てはまれば、当該子会社は親事業者とみなされて下請法の規制の対象となります（2条）。
• 親事業者と下請事業者に資本上の親子関係があっても下請法の対象となりますが、親事業者（親会社）が下請事業者（子会社）の議決権の50％を超える場合など実質的に同一会社内での取引とみられる場合は、運用において問題としていないようです（下請取引適正化推進講習会テキスト_適用範囲についてのＱ＆Ａ）。

〇 親事業者の義務及び禁止事項

◇ 親事業者の義務

• 親事業者は、下請事業者に製造委託等をした場合は、直ちに下請事業者の給付内容、下請代金額、支払期日、支払方法、その他の事項を記載した書面（いわゆる「3条書面」）を下請事業者に交付しなければなりません（3条）。
• 記載事項のうち定められないことにつき正当な理由があるものについては記載を要しませんが、定められたのち直ちに当該事項を記載した書面を交付しなければなりません。
• 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日以内に定められなければなりません（2条の2）。
• 60日を超えた支払期日を定めても60日と定めたものとみなされます。
• 支払期日が定められなかったときは、下請事業者の給付を受領した日が支払期日と定められたものとみなされます。
• 親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかったときは、下請事業者に対し、給付を受領後61日目から支払日までの期間の遅延利息（年率14.6%）を支払わなければなりません（4条の2）。
• 親事業者は、下請事業者に製造委託等をした場合は、下請事業者の給付、給付の受領、下請代金の支払、その他の事項を記載した書類（いわゆる「5条書面」）を作成し、2年間保存しなければなりません（5条）。

◇ 親事業者の禁止事項

• 親事業者は、下請事業者に対し、次に掲げる行為をしてはなりません（4条）。
• 下請事業者に責任がないのに、発注した物品の受領を拒否すること。
• 下請代金の支払期日を経過しても支払わないこと。
• 下請事業者に責任がないのに、下請代金を減額すること（振込手数料も差し引くには事前の書面合意が必要）。
• 受入時に契約不適合など下請事業者の責任がなかった（あるいは受入検査を行わなかった）のに、いったん受領した物品を返品すること。
• 下請代金額について、市価に比べて著しく低い額を一方的に定めること。
• 正当な理由がなく、指定した物品を強制して購入させたり、指定した業者を強制して使用させること。
• 下請事業者が公正取引委員会や中小企業庁に対し事実を知らせたことを理由に、不利益な取扱いをすること。
• 親事業者が下請事業者に製造に必要な原材料等を購入させている場合で、下請代金の支払期日よりも前に、原材料等の代金を決済すること。
• 下請代金として、一般の金融機関による割引が困難な手形（手形サイトが繊維工業の取引で90日、その他の業種の取引で120日を超えるもの）を交付すること。
• 親事業者が、自社のために、下請事業者に対して金銭、サービスなどの経済上の利益を不当に提供させること。
• 下請事業者に責任がないのに、注文内容と異なる給付をさせたり、受領後にやり直しをさせること。

〇 行政指導・行政処分等

◇ 中小企業庁の請求

• 中小企業庁長官は、親事業者や下請事業者に対し報告を求め立入検査することができ（9条）、親事業者が遵守事項に違反している事実があると認めるときは、公正取引委員会に対して、適当な措置をとるよう請求することができます（6条）。

◇ 公正取引委員会の勧告

• 公正取引委員会は、親事業者や下請事業者に対し報告を求め立入検査することができ（9条）、親事業者が遵守事項に反した事実がある認めるときは、その親事業者に対し、速やかに必要な措置をとるべきことを勧告することができます（7条）。

〇 刑罰

◇ 罰則の内容

• 罰則は、3条書面を交付しなかったとき、5条書面を作成・保存しなかったか虚偽の内容で作成したときなどで、50万円以下の罰金となっています（10～11条）。

◇ 両罰規定

• 法人の代表者、使用人、従業員が、その法人の業務に関し罰金刑を科されたときは、その法人に対しても罰金刑が科されます（12条）。