建築士法の概要と遵守のポイント

〇 建築士法の概要

◇ 建築士法の目的

• 建築士法の目的は、建築士の免許や業務内容などを定め、建築物の質の向上を図ることです。このため、建築士の免許制度及び試験制度、設計・監理契約の適正化、建築士事務所制度、許認可権限者による監督権、罰則などが定められています。

◇ 条文参照

• 建築士法（2020/03/01改正施行）

条項	内容
1条～3条	目的、用語の定義、建築士が設計できる建物の制限
4条～9条、10条の3～11条	建築士の免許制度（免許の取得・登録・取消、登録機関等）
10条～10条の2	建築士に対する報告要求・立入検査及び懲戒処分（戒告・業務停止・免許取消）等
10条の2の2	構造設計一級建築士証及び設備設計一級建築士証の交付
12条～17条、28条～33条	建築士の試験制度（受験資格、試験の実施、試験機関、建築士審査会等）
18条～22条の3、22条の4	建築士の業務及び責務（業務内容、表示行為、禁止行為、定期講習受講、講習機関、建築士会等）
22条の3の2～22条の3の4	設計・監理契約の適正化（契約等の原則、書面契約の義務、適正な委託代金）
23条～24条の6、24条の9、26条の3～27条の5	建築士事務所の登録と管理（建築士事務所の申請・登録・変更・更新・廃業・抹消、事業年度ごとの報告、管理建築士の配置と役割、無登録での業務の禁止、再委託の制限、帳簿の備付、書類の閲覧、標識の掲示、保険契約の締結、登録機関、建築士事務所協会等）
24条の7～24条の8	重要事項説明、契約締結後の書面交付
25条	業務報酬基準の設定
26条～26条の2	建築士事務所に対する報告要求・立入検査及び監督処分（戒告、事務所閉鎖、登録取消）等
34条～37条	雑則
38条～44条	罰則

〇 建築士免許の種類と建築士が設計・工事監理を行う必要がある建築物の制限

◇ 建築士免許の種類

• 建築士免許には、一級建築士、二級建築士、木造建築士の他に、耐震構造計算偽装事件を受け、2008年の法改正により構造設計一級建築士及び設備設計一級建築士が設けられています（4条、10条の2の2）。
• 一級建築士：国土交通大臣の行う一級建築士試験に合格し、免許申請により名簿登録された者（学歴及び実務経験※による受験資格あり）　
• 二級建築士：都道府県知事の行う二級建築士試験に合格し、免許申請により名簿登録された者（学歴及び実務経験※による受験資格あり）
• 木造建築士：都道府県知事の行う木造建築士試験に合格し、免許申請により名簿登録された者（学歴及び実務経験※による受験資格あり）
• 構造設計一級建築士：一級建築士として5年以上構造設計の業務に従事した後、所定の講習を受講し修了考査に合格した者
• 設備設計一級建築士：一級建築士として5年以上設備設計の業務に従事した後、所定の講習を受講し修了考査に合格した者
※実務経験⇒★2020年3月改正建築士法施行で実務経験は登録申請時までに積めば良いことになりました（実務経験は、受験要件であったが、2020年度建築士試験から登録要件となった）。

◇ 建築士が設計・工事監理を行う必要がある建築物の制限

• 制限の対象となる建築工事の種類は、新築、増築、改築、大規模修繕・模様替です（3条～3条の3）。
• 大規模修繕・模様替とは、建築物の主要構造部（壁、柱、床、はり、屋根、階段）のうち一種類以上において、その過半の修繕又は模様替を行うことです。例えば、壁の総面積の半分を超える修繕・模様替や、柱の総本数の半分を超える修繕・模様替などが該当します。
• 建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、附け柱、揚げ床、最下階の床、廻り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分は大規模修繕・模様替とはなりません。
• 制限の対象となる建築工事の規模は、建築士免許の種類によって次の通り異なります（3条～3条の3、20条の2～20条の3）。
• 一級建築士：規模による制限なし。（但し、高層・超高層の建築物の構造については構造設計一級建築士が、3階建以上かつ床面積5000㎡超の建築物の設備については設備設計一級建築士が、それぞれ自ら設計するか法適合確認を行うことを義務付け）
• 二級建築士：木造で、1階建で面積制限なし（但し、学校・病院など特定用途は500㎡以下）、2階建以上で延面積1000㎡以下（但し、学校・病院など特定用途は500㎡以下）。木造以外で、延面積300㎡以下。いずれも高さ13m以下かつ軒高9m以下。
• 木造建築士：木造で、2階建以下、延面積300㎡以下、高さ13m以下かつ軒高9m以下。
• (免許不要)：木造で、2階建以下、延面積100㎡以下。木造以外で、2階建以下、延面積30㎡以下。いずれも高さ13m以下かつ軒高9m以下。

〇 建築士の業務及び責務

◇ 建築士の業務

• 建築士の業務とは、建築物に関し、設計、工事監理、その他の業務を行うことです（2条）。
• 設計の業務とは、建築主の注文を受けて、（その要望に沿った）建築物の設計図書（建築工事のために必要な図面及び仕様書）を作成することです（第2条）。
• 工事監理の業務とは、工事を設計図書と照合し、設計図書のとおりに施工されているか確認することです（第2条）。
• その他の業務とは、建築工事契約に関する事務、建築工事の指導監督、建築物に関する調査・鑑定、建築物の建築に関する法令や条例の規定に基づく手続の代理等です（21条）。

◇ 建築士の責務

• 建築士の職責として、「常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」と定められています（2条の2）。
• 建築士は、設計に当たって、法令や条例の定める建築物に関する基準に適合するよう設計し、また建築主等に対し設計内容を適切に説明するように努めなければなりません（18条）。建築士は、設計図書に一級（二級・木造）建築士である旨の表示をして、記名及び押印をしなければなりません（20条）。建築士は、構造計算によって建築物の安全性を確かめた場合においては、遅滞なく証明書を設計の委託者に交付しなければなりません（20条）。
• 建築士は、工事監理に当たって、工事が設計図書のとおりに施工されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に指摘し設計図書のとおりに実施するよう求め、工事施工者が従わないときはその旨を建築主に報告しなければなりません（18条）。また、工事監理を終了したときは、直ちにその結果を文書で建築主に報告しなければならなりません（20条）。
• 建築士は、延面積2000㎡を超える建築物の建築設備に係る設計又は工事監理を行う場合は、設備設計一級建築士が設計を行う場合を除き、建築設備士の意見を聴くよう努めなければなりません（18条）。また、建築設備士の意見を聴いたときは、設計図書や工事監理の報告書において、その旨を明らかにしなければなりません（20条）。
• 建築士は、他の建築士の設計した設計図書を変更するときは、当該建築士の承諾を求めなければなりませんが、承諾を求めることのできない事由があるとき、又は承諾が得られなかつたときは、自己の責任で変更することができます（19条）。
• 建築士は、建築主等から請求があつたときは、建築士免許証（又は免許証明書）を提示しなければなりません（19条の2）。
• 構造設計一級建築士は、高層・超高層の建築物について、自ら構造設計を行った場合はその構造設計図書に構造設計一級建築士である旨の表示をし、また、構造設計一級建築士以外の一級建築士が行った構造設計の法適合確認をしたときは、当該構造設計図書にその旨を記載し構造設計一級建築士である旨の表示をし記名及・押印をしなければなりません（20条の2）。
• 設備設計一級建築士は、3階建以上かつ床面積5000㎡超の建築物の設備について、自ら設備設計を行った場合はその設備設計図書に設備設計一級建築士である旨の表示をし、また、設備設計一級建築士以外の一級建築士が行った設備設計の法適合確認をしたときは、当該設備設計図書にその旨を記載し設備設計一級建築士である旨の表示をし記名及・押印をしなければなりません（20条の3）。

◇ 建築士の名義貸し、違反行為の指示及び信用失墜行為の禁止

• 建築士は、建築士が設計・工事監理を行う必要がある建築物の制限に違反する者に対し、自己の名義を利用させてはなりません（21条の2）。
• 建築士は、建築基準法の定める建築物に関する基準に適合しない建築物の建築等について指示をしたり相談に応じてはなりません（21条の3）。
• 建築士は、建築士の信用又は品位を害するような行為をしてはなりません（21条の4）。

◇ 定期講習の受講義務

• 建築士事務所に所属する建築士は、登録講習機関が行う定期講習を３年以内ごとに受講しなければなりません（22条の2）。受講期限内に受講しない場合は、戒告または２ヶ月間の業務停止処分の対象となります。（参考：国土交通省から「定期講習の受講について」）

〇 設計・監理契約の適正化

◇ 設計・監理契約の原則

• 設計契約又は工事監理契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければなりません（22条の3の2）。

◇ 設計・監理契約の書面による締結

• 延面積300㎡超の建築物の新築の設計契約又は工事監理契約、もしくは増築、改築、大規模修繕・模様替に係る部分が300㎡超の設計契約又は工事監理契約の当事者は、契約の締結に際し、次の事項等を書面に記載し記名押印して相互に交付しなければなりません。また、その事項等を変更するときも、変更の内容を書面に記載し記名押印して相互に交付しなければなりません。（22条の3の3）事実上、書面による契約締結を義務づけたものです。
• 建築物の概要
• 実施期間
• 設計契約において、作成する設計図書の種類
• 工事監理契約において、工事と設計図書との照合方法、工事監理実施状況に関する報告方法
• 建築士事務所の名称・所在地・開設者氏名
• 従事する建築士の氏名・免許の別・登録番号
• 一部再委託する場合は、その概要、再受託者の名称・所在地
• 報酬の額、支払時期
• 契約解除に関する事項等

〇 建築士事務所の登録と管理

◇ 建築士事務所の登録

• 一級（二級・木造）建築士又はこれらの者を使用する者は、報酬を得て設計や工事監理等を業として行うときは、一級（二級・木造）建築士事務所を定めて都道府県知事の登録を受けなければなりません。（建築士が行う建築物の設計や工事監理の業務は、都道府県知事の登録を受けた「建築士事務所」でなければ行うことができません。）（23条）
• 建築事務所登録の有効期間は5年で、5年毎に更新登録を受けなければなりません。（23条）
• 建築事務所登録に当たって、建築士事務所の名称・所在地、登録申請者たる法人名・役員名、管理建築士の氏名・免許、所属建築士の氏名・免許等を提出しなければなりません（23条の3）。登録内容に変更があった場合、役員・管理建築士は2週間以内に、所属建築士は3か月以内に届出が必要となります（23条の5）。建築士は、建築士事務所による所属建築士の登録を受けないで報酬を得て設計等を業として行うことはできません（23条の10）。
• 事業年度ごとに、当該事業年度における業務実績の概要、所属する建築士の氏名とその当該事業年度における業務実績等を記載した「設計等の業務に関する報告書」を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に提出しなければなりません。（23条の6）

◇ 管理建築士の配置

• 建築士事務所の開設者は、一級（二級・木造）建築士事務所に、専任の一級（二級・木造）建築士を「管理建築士」として置かなければなりません。管理建築士は、建築士として3年以上設計業務に従事した後、所定の講習を修了した建築士でなければなりません。（24条）
• 管理建築士は、建築士事務所の業務に係る、受託可能な業務の量及び難易並びに業務の内容に応じて必要となる期間の設定、受託しようとする業務を担当させる建築士その他の技術者の選定及び配置、他の建築士事務所との提携及び提携先に行わせる業務の範囲の案の作成、建築士事務所に属する建築士その他の技術者の監督及びその業務遂行の適正の確保について、技術的事項を総括します。管理建築士と建築士事務所の開設者とが異なる場合は、管理建築士は建築士事務所の開設者に対し、前記の技術的事項に関し建築士事務所の業務が円滑かつ適切に行われるよう必要な意見を述べるものとし、建築士事務所の開設者はその意見を尊重しなければなりません。（24条）

◇ 建築事務所の名義貸しの禁止

• 建築士事務所の開設者は、自己の名義をもって、他人に建築士事務所の業務を営ませてはなりません（24条の2）。

◇ 再委託の制限

• 建築士事務所の開設者は、委託者の許諾を得ても、委託を受けた設計・工事監理の業務を建築士事務所の開設者以外に再委託してはなりません（24条の3）。
• 建築士事務所の開設者は、延面積300㎡超の建築物の新築工事では、委託者の許諾を得ても、委託を受けた設計・工事監理の業務を他の建築士事務所の開設者に一括して再委託してはなりません（24条の3）。

◇ 標識及び備付書類等

• 建築士事務所の開設者は、建築士事務所において公衆の見やすい場所に所定の標識を掲げなければなりません（24条の5）。
• 建築士事務所の開設者は、建築士事務所の業務に関する所定の帳簿を備え付け保存し、その他所定の図書を保存しなければなりません（24条の4）。
• 建築士事務所の開設者は、業務実績、所属建築士の氏名及び実績、損害賠償保険契約等の書類を備え置き、設計等を委託しようとする者の求めに応じ閲覧させなければなりません（24条の6）。

◇ 重要事項の説明

• 建築士事務所の開設者は、設計・工事監理契約を建築主と締結しようとするときは、あらかじめ建築主に対し、管理建築士その他所属建築士に、建築士免許証（又は免許証明書）を提示のうえ、次の事項等について書面を交付して説明させなければなりません（24条の7）。
• 設計契約において、作成する設計図書の種類
• 工事監理契約において、工事と設計図書との照合方法、工事監理実施状況に関する報告方法
• 従事する建築士の氏名・免許の別・登録番号
• 報酬の額、支払時期
• 契約解除に関する事項等

◇ 書面の交付

• 建築士事務所の開設者は、設計・工事監理契約を締結したときは、遅滞なく、「設計・監理契約の書面による締結」の項で掲げた事項を記載した書面を建築主に交付しなければなりません（24条の8）。ただし、契約の当事者が、「設計・監理契約の書面による締結」の項で掲げた事項等を記載した書面による契約締結をしている場合は必要ありません（22条の3の3）。

◇ 保険契約の締結

• 建築士事務所の開設者は、設計等の業務に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保するための保険契約の締結等に努めなければなりません。（24条の9）。

〇 業務報酬

◇ 報酬の基準

• 国土交通大臣は、建築士事務所が業務に関して請求することのできる「報酬の基準」を定めることができます(25条 )。
• 設計・工事監理契約を締結する者は、国土交通大臣が定めた「報酬の基準」に準拠した委託代金で契約を締結するよう努めなければなりません（22条の3の4）。

〇 行政指導・行政処分等

◇ 建築士に対する立入検査及び懲戒処分

• 国土交通大臣（都道府県知事）は、一級建築士（二級建築士・木造建築士）に対しその業務に関し必要な報告を求め、建築士事務所等に立入検査をすることができます（10条の2）。
• 国土交通大臣（都道府県知事）は、免許を受けた建築士が、建築士法等に違反したときや、業務に関して不誠実な行為をしたとき、当該建築士に対し、戒告し、1年以内の業務の停止を命じ、又は免許の取消をすることができます（10条）。

◇ 建築士事務所に対する立入検査及び監督処分

• 都道府県知事は、建築士事務所の開設者もしくは管理建築士に対し、必要な報告を求め、建築士事務所に立入検査をすることができます（26条の2）。
• 都道府県知事は、建築士事務所につき、建築士法等に違反したときや、業務に関して不誠実な行為をしたときなど、当該建築士事務所の開設者に対し、戒告し、1年以内の建築士事務所の閉鎖を命じ、又は建築士事務所の登録を取り消すことができます（26条）。

〇 刑罰

◇ 罰則の内容

• 罰則は、最も厳しいもので、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっており、無免許で建築士を名乗って営んだ場合、不正に建築士免許を取得した場合、建築士免許に応じて設計できる建物の制限に違反した場合、建築士が業務停止命令に従わなかった場合、構造計算による安全性を確かめずに証明書を交付した場合、建築士の名義貸しをした場合、不正に建築士事務所を登録した場合、建築士が建築士事務所に登録せずに設計等を行った場合、建築士事務所に登録せずに建築士を使って設計業を営んだ場合、建築士事務所が管理建築士を置かなかった場合、建築士事務所の名義貸しをした場合、建築士事務所の閉鎖命令に従わなかった場合などが該当します（38条～40条）。この他に、30万円以下の罰金刑があります（41条～42条）。

◇ 両罰規定

• 法人の代表者、使用人、従業員が、その法人の業務に関し刑罰を科されたときは、その法人に対しても罰金刑を科されます（43条）。

◇ 建築基準法における罰則

• 設計の内容に対する罰則は「建築基準法」に規定があり、最も厳しいもので、構造耐力や防火等の基準に反した設計を行った場合など、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金（両罰規定による法人に対しては1億円以下の罰金）となっています。